ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

除夜じょやの鐘

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千万年も、古びたよるの空気をふるわし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

それは寺院の森のきらった空……
そのあたりで鳴って、そしてそこから響いて来る。
それは寺院の森の霧った空……

その時子供は父母の膝下ひざもと蕎麦そばを食うべ、
その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出、
その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ。

その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出。
その時囚人しゅうじんは、どんな心持こころもちだろう、どんな心持だろう、
その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出。

除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
千万年も、古びたよるの空気を顫はし、
除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。

『在りし日の歌』より

朗 読

解 説

除夜の鐘

「除夜の鐘」は1936年『四季』1月号に発表された。『四季』の同人は三好達治、丸山薫、堀辰雄、津村信夫、立原道造の5名だったが、2月号から新たに井伏鱒二、萩原朔太郎、竹中郁、田中克己、辻野久憲、桑原武夫、神西清、神保光太郎と中原中也の9名が加わった。また3月第二次『歴程』の創刊にも中也は同人として参加した。
 
 「除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。
  千万年も、古びたよるの空気を顫わし、
  除夜の鐘は暗い遠いい空で鳴る。」

「その時銀座はいっぱいの人出、浅草もいっぱいの人出。」という1行はこの詩の中で3回現われる。「その時子供は父母の膝下で蕎麦を食うべ、」という行は2回現われる。

幸せな光景が繰り返されるなかで、1回だけ現われる次の1行が引き立っている。

 「その時囚人は、どんな心持だろう、どんな心持だろう、」

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