解　説

詩人は辛い

「詩人は辛い」は１９３５年９月１９日制作の未刊詩篇である。８月、中也は妻の孝子と文也を連れて郷里の湯田から上京したところだった。

この作品は１連２行で、６連から成り立っている。「私はもう歌なぞ歌わない」と始まるこの詩は、「みんな歌なぞ聴いてはいない／聴いてるようなふりだけはする」と続く。

「名辞※以前の世界」だけを己の詩の核心とした中也の詩法がここにも現われる。この詩は「歌う」ことだけを自分の詩法とした中也の素直な気持であったろう。「詩人は辛い」という表題がその事を表わしている。