ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休み、ぷらりぷらりと手を振って
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立っている
ひょんな眼付で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ、出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きいビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな
「正午」は1937年『文学界』10月号に発表された。「丸ビル風景」と副題にあるように、この詩は丸ビルから出て来る月給取をうたっている。
「ああ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休み、ぷらりぷらりと手を振って」
東京市が「ドン」で親しまれていた午砲を廃止してサイレンを用いたのは1929(昭和4)年5月1日メーデーの日からであった。
「サイレンだサイレンだ」「出てくるわ出てくるわ」と同じ言葉を繰り返すのは滑稽を演出する狂言の語法で、それを中也は独特のお道化節としてうたっている。
最初詩人は丸ビルの上から俯瞰する位置にいるのだが、いつの間にか地上に降りて来ている。
ご感想
プチ公さん 2023/10/09 21:21:49
最近、東京に行って、この詩の元ネタとなった丸ビルを見てきたけど、芸術性とか全くない僕にとっては「ああ、丸ビルだー」としか思わなかったけど、彼にとってはソノ風景がすごく印象深かったんだろうなぁ。
喜劇さん 2023/10/09 20:13:34
しがないサラリーマンの日常!w そんなおもちゃの機械的に動き続ける人々を、冷静に見ている詩人の表現がなんかユーモラスで面白い! 特に、「空はひろびろ薄曇り、」のところが妙にリアルな感じがする!!
ミントさん 2022/01/30 21:10:42
面白い🤣
小道周帆さん 2017/09/27 19:20:29
中原中也というと「悲しみ」というイメージが付いて回るように思っていた。そんな中で『正午』丸ビル風景は異色で、サラリーマンをユーモラスに、あるいは皮肉っぽく詠っている。 リフレインを使うことで、昼休を迎えたサラリーマンの喜びのリズムを現わしているように思った。 自由人の中原中也は規則正しい生活をしているサラリーマンにどんな感情を持っていたのだろうか。
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