柱も庭も乾いている
今日は好い天気だ
縁の下では蜘蛛の巣が
心細そうに揺れている
山では枯木も息を吐く
ああ今日は好い天気だ
路傍の草影が
あどけない愁みをする
これが私の故里だ
さやかに風も吹いている
心置なく泣かれよと
年増婦の低い声もする
ああ おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云う
「帰郷」は1930年5月『スルヤ』第4輯に発表された。「帰郷」は5月内海誓一郎の作曲で第5回『スルヤ』発表会で歌われた。詩碑は中也の生地湯田の高田公園にある。文字は小林秀雄によるものである。
「山では枯木も息を吐く」と始まる2連目に続いて
「これが私の故里だ
さやかに風も吹いている
心置なく泣かれよと
年増婦の低い声もする」
という3連目の4行がこの詩の中心である。
当初は4行4連の16行だったが、第3連の次にあった「庁舎がなんだか素々として見える、/それから何もかもがゆっくり私に見入る。」の2行を、内海の意見を入れて中也は省いた。
「ああ おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云う」
これが詩人が帰郷した時、故里の風が語りかける言葉であろう。
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