海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは、浪ばかり。
曇った北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪っているのです。
いつはてるとも知れない呪。
海にいるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にいるのは、
あれは、浪ばかり。
「北の海」は、1935年『歴程』創刊号(5月1日発行)に発表された。
この頃中也は多作な時期に入っていて、同じ号の『歴程』に「寒い!」を、『文学界』には「朝鮮女」を発表している。
「曇った北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪っているのです。
いつはてるとも知れない呪。」
この暗澹たる「北の海」の2連目を「海にいるのは、/あれは人魚ではないのです」とはじまる童謡風の4行のリフレインがはさみ込んでいる。暗い呪詛の海の2連目は消えて、前後の「海にいるのは、/あれは、浪ばかり」というリフレインだけが私達の耳に残るのだ。
郷里で文也と共にあった時の作品だ。この詩もまた文也への語りかけの調子を持っている。
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