冬の夜に
私の心が悲しんでいる
悲しんでいる、わけもなく……
心は錆びて、紫色をしている。
丈夫な扉の向うに、
古い日は放心している。
丘の上では
棉の実が罅裂ける。
此処では薪が燻っている、
その煙は、自分自らを
知ってでもいるようにのぼる。
誘われるでもなく
覓めるでもなく、
私の心が燻る……
「冷たい夜」は1936年『四季』2月号に発表された。この年は『四季』『文学界』『改造』『紀元』等に詩、訳詩を多数発表した。1月には「含羞」、6月には「六月の雨」と代表作を発表している。
「冬の夜に
私の心が悲しんでいる」
と歌い出す4行、4行、3行、3行の14行詩で、冬の夜の詩人の孤影を歌っている。「冷たい夜」は土に根を張る植物のように自分は実を結ぶこともなく、実が罅裂けて新しい生命の予兆を現わすようなものがないと嘆くのだ。ただ根を断たれて半ば枯れた薪のように火にくべられて燻るほかはないと。
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