またひとしきり 午前の雨が
菖蒲のいろの みどりいろ
眼うるめる 面長き女
たちあらわれて 消えてゆく
たちあらわれて 消えゆけば
うれいに沈み しとしとと
畠の上に 落ちている
はてしもしれず 落ちている
お太鼓叩いて 笛吹いて
あどけない子が 日曜日
畳の上で 遊びます
お太鼓叩いて 笛吹いて
遊んでいれば 雨が降る
櫺子の外に 雨が降る
「六月の雨」は1936年『文学界』6月号に発表された。
「六月の雨」の新しさは菖蒲の精のような「面長き女」の出現と消失を、「雨」という心象によって後半の童謡の世界と繋げたところにある。幼児の閉ざされた世界に、影絵のように降りつづく雨を配して、「立ち去った女」を出現させた映像の重層性は、中也の技法の新しさを示していた。
この後大きく転調して童謡風の2連がつづく。「お太鼓叩いて 笛吹いて」というリフレインが童謡調を際立たせていて、中也は、長男文也にこの作品を献じたのかもしれなかった。
これは、中也の自信のあった作品で、第6回文学界賞の候補作品となった。三好達治は、「詩情の若々しさと詩技の習熟とを兼ね備えた作品として、近頃最も感心した佳品」と賛辞をおくった。しかし、第6回文学界賞は岡本かの子の「鶴は病みき」が4票で決定、「六月の雨」は2票で次席であった。
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