時こそ今は花は香炉に打薫じ、
そこはかとないけはいです。
しおだる花や水の音や、
家路をいそぐ人々や。
いかに泰子、いまこそは
しずかに一緒に、おりましょう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情け、みちてます。
いかに泰子、いまこそは
暮るる籬や群青の
空もしずかに流るころ。
いかに泰子、いまこそは
おまえの髪毛なよぶころ
花は香炉に打薫じ、
「時こそ今は……」は、1930年4月『白痴群』第6号が初出である。制作の時期ははっきりしない。しかし、「いかに泰子、いまこそは」という呼びかけがあるところから、1928年5月小林秀雄と長谷川泰子が別れた後だと思われる。中也は、泰子は自分の元へ戻って来ると思っていた。
「いかに泰子、いまこそは
しずかに一緒に、おりましょう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情け、みちてます。」
上に引いたのはこの詩の2連目の4行だが、「時こそ今は花は香爐に打薫じ、」というボードレールの1句から歌われている1連目の最初の1行へとつながる。4連目の最後で「花は香爐に打薫じ、」で終わっているが、おそらく「時こそ今は」を省いたのは表題と重なるからであろう。
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