ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

夏の日の歌

青い空は動かない、
雲片くもぎれ一つあるでない。
  夏の真昼の静かには
  タールの光も清くなる。

夏の空には何かがある、
いぢらしく思わせる何かがある、
  げて図太い向日葵ひまわり
  田舎の駅には咲いている。

上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  山の近くを走る時。

山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
  夏の真昼の暑い時。

『山羊の歌』より

朗 読

解 説

夏の日の歌

「夏の日の歌」は、1933年『紀元』10月号に発表された。
中也はこの頃精神状態が悪く被害妄想を抱くようになっていた。高森文夫は湯田へ電報を打ち、弟思郎が迎えに来て中也は帰省した。
8月の事である。

 「青い空は動かない
  雲ぎれ一つあるでない。
    夏の真昼の静かには
    タールの光も清くなる。」

この詩は湯田に帰っていた中也が故郷の夏を歌ったものである。

 「山の近くを走りながら、
  母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
    夏の真昼の暑い時。」

中也のノイローゼは、この年12月の上野孝子との結婚で終わる。

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