畳の上に、寝ころぼう、
蝿はブンブン 唸ってる
畳ももはや 黄色くなったと
今朝がた 誰かが云っていたっけ
それやこれやと とりとめもなく
僕の頭に 記憶は浮かび
浮かぶがままに 浮かべているうち
いつしか 僕は眠っていたのだ
覚めたのは 夕方ちかく
まだかなかなは 啼いてたけれど
樹々の梢は 陽を受けてたけど、
僕は庭木に 打水やった
打水が、樹々の下枝の葉の尖に
光っているのをいつまでも、僕は見ていた
「残暑」は、1936年『婦人公論』9月号に発表された。
「畳の上に、寝ころぼう、
蝿はブンブン 唸ってる」
と始まるこの詩で詩人はいつしか眠ってしまう。目覚めたのは夕方近くでまだかなかなは啼いていて、木々の梢は陽を受けていた。そこで詩人は、庭木に打ち水をやるのである。
「打水が、樹々の下枝の葉の尖に
光っているのをいつまでも、僕は見ていた」
中也はありふれた光景を実に克明に描き出す。
例えば「早春散歩」の次の2行もそうである。
「土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら」
これが中也の詩の核心である。
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