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『東京物語』神経衰弱

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映画誌「Sight & Sound」

ロンドン五輪にパラリンピックと日本勢大活躍でしたが、同じ頃、イギリスでは映画界でも日本勢活躍、というか再評価されていました。なんと『東京物語』が1位!というのは、BFI(British Film Institute)発行の映画誌「Sight & Sound」が10年毎に行っている「The Greatest Films Poll」での投票結果。世界の358人の映画監督による投票です。英国映画協会とも訳されるBFIはイギリスを代表する映画振興団体で、ロンドン映画祭など各種映画祭や新作映画のお披露目に私もよく足を運びます。

映画監督による投票で1位だった『東京物語』は、世界の846人の批評家など映画専門家による投票でも3位でした。文句なしに優れた映画ですが、こういう地味な映画が、これほど上位にくるとは、ちょっと意外。その秘密は、各自が10本選び、その10本それぞれを1票とカウントする投票方式にもありそうです。各自1本だけ選ぶなら、感動!衝撃!斬新!みたいなインパクトの強いのが有利になりそうですが、10本選ぶとなると、その中には好みやインパクトに左右されない良い作品が、ちゃんと入ってきそう。さすが考えてます。

1952年から行われている投票結果をさかのぼって見ても、もちろん新しい作品も入ってくるし順位にも変動はありますが、全部が入れ替わるようなことにはならないのが信頼できる感じです。『東京物語』も1992年から10位以内には入っています。じわじわと海外映画専門家の間にも完成度の高さが知れ渡ってきたのでしょう。

批評家などが選んだ250位までと、監督が選んだ100位までの結果とともに、気になるのは誰が投票しているか。それが全部見られるようになりました。

    ■Sight & Sound 2012 Poll - all voters BFI British Film Institute
    http://explore.bfi.org.uk/sightandsoundpolls/2012/voter

どの監督が『東京物語』を選んでいるか見てみますね。でも、これ、PollとCategoryでDirectorを選び、見たい国を選んで、あがってきた名前を、いちいちクリックして開けなきゃいけない…めんどう…と思ったのもつかのま、『東京物語』神経衰弱として楽しめちゃいました。投票してそうな監督をクリック!アタリ!という具合。

まずは日本を選んでみると6人の監督の名前。丹念なドキュメンタリーを撮る想田和弘監督(こちらでご紹介)は選んでそう…ビンゴ!ここは6人全部開けてみたら、『東京物語』を選んでいたのは想田監督だけでした。でも、強烈な作品(こちらなど)で知られる園子温監督が選んだ10作品に『ベイブ』と『仁義の墓場』が並んでいたり、それぞれ個性的な選択が面白いです。

海外に移って続行、『別離』(こちら)でのカメラアングルに上手さが出ていたアスガー・ファルハディ監督は…やっぱり!『ハンガー』『シェイム』(こちら)とターナー・プライズ獲得アーティストらしいバッチリ決まった映像を見せてくれたスティーブ・マックイーン監督も…ほらね!決まる映像と言えばタル・ベーラ監督(こちら)もきっと…ねっ!市井の人の日常を描いた名作(こちらなど)の数々があるマイク・リー監督はズバリでしょう!と、それぞれ『東京物語』とも通じる良さのある監督を開けていったら、けっこうあたって満足。

その後、順位にある作品をクリックすると、その作品を選んだ人の名前がダーッと並んでいるのを発見。なーんだ、最初から、こうしたら早かったのね。でも、神経衰弱方式で予想しつつ開けていくのも、なかなか楽しめたので、映画好きでお暇な方限定でお勧めします。と、ちょっと負け惜しみ。

この投票結果、さすがに名作がもれなく並んでいる感じで、眺めているだけでも楽しめます。最近の日本映画を探すと、例えば、批評家などが選んだ154位に宮崎駿監督の『となりのトトロ』!154位なんてたいしたことないと思われるかもしれませんが、同じファミリー・ムービーなら、あのスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』でさえ182位。なんたって全時代、全ジャンルの映画からの投票ですから。『となりのトトロ』の154位は、もちろんアニメ作品では最上位!

日本映画の高評価を喜んでいるのと矛盾するようですが、順位にも各投票者の10作品にも様々な国の映画が並んでいるのを見ると、あらためて映画っていいなあーと思います。言葉も習慣も違う国の映画でさえ、良さがわかったり、通じるものがあったり。映画に国境はない!

2012.9.20 掲載

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