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名作の影に名脚本家アビ・モーガン『SHAME-シェイム-』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』

スティーブ・マックイーン監督にマイケル・ファスベンダーと言えば、カメラ・ドール受賞の『ハンガー』で一躍世界に躍り出たコンビだ。物議を醸す素材をキャラクターの内側に迫る表現で見せた2人が、またやってくれた。
  マックイーン監督、ファスベンダーを身ぐるみはがすのが好きらしい。前作では、脱がせた上にお肉までそぎとって、ハンガーストライキで死んでしまうボビー・サンズ役をあてた。今回は、セックス中毒の主人公をやらせている。
  「体で表現するのが俳優の仕事だ!」と迫力ある巨体でまくしたてるマックイーン監督の横で、「それを撮影中にもずっと言われたよ」と笑っていたファスベンダー。監督の期待にしっかり応え、裸体だけでなく、セックス依存から抜けようとあがく葛藤も見せる。
  こちらも問題ありの妹を演じるキャリー・マリガンも熱演している。

一方、大ヒット作『マンマ・ミーア』のフィリダ・ロイド監督とメリル・ストリ−プが、再度コンビを組んだのが『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』。元気にはじけたミュージカルから一転、初の英女性首相の半生を見せる。
  この作品でアカデミー主演女優賞を獲得したストリープは圧巻。こちらもアカデミーメイクアップ賞受賞のすごいメイクで、現在の老いたサッチャーを演じながら、“鉄の女”と呼ばれた面影まで感じさせる、厚みのある演技を見せる。
  地元イギリスでは、サッチャーを取り巻く政治家の人物像が不正確という声もあがった。ロイド監督は「これは主観的に描かれた完全なフィクションです」と言い切る。
  映画としては良い作品だが、サッチャーの政策への反発がこの映画への反発となっている部分もあるようだ。夫役を演じたジム・ブロードベンドでさえ「僕はサッチャー支持者ではないが、この映画はいい」と一言前置きしてから映画を評する。
  実在の人物、しかも必ずしもよい評価ばかりではない人物を主人公に据えた映画は、そういう面で割を食うのが惜しい。上記『ハンガー』も、テロリストを肯定するのかという的外れな批判があったのを思い出す。

話を、今回の2作『SHAME-シェイム-』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』に戻そう。全くタイプの違う2本だが、書いているのは同じ脚本家、アビ・モーガンだ。
  この2本含めモーガンの最近の作品はもれなく面白い。昨年BBCテレビで放映された『The Hour』、同じくBBCで今年放映の『Birdsong』とも、次回が楽しみなドラマだった。前者は個性的な演技派ベン・ウィッショー主演のサスペンス・ドラマ、後者は『マリリン 7日間の恋』への大抜擢で俄然注目を集めるエディ・レッドメイン主演の戦中ロマンスだ。
  アビ・モーガン、組む人、書くストーリーのタイプを選ばず、いい仕事をする仕事人とみた。

『SHAME-シェイム-』3月10日公開 ■ ■ ■

セックスに支配されたように暮らす男(ファスベンダー)のもとに、クラブ歌手をする奔放な妹(マリガン)が押しかけてくる。娼婦を買い、インターネットでポルノサイトをあさる自分を何とかすることで手一杯の男は、妹の心の叫びにも気づけず…

 監督 スティーブ・マックイーン
 出演 マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン ほか


『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』3月16日公開 ■ ■ ■

地元商店で牛乳を買う老女(ストリープ)。牛乳の価格の上がり方を気にする、その老女こそ、英国初の女性首相となったマーガレット・サッチャーその人だ。強硬姿勢で知られ、“鉄の女”の異名をとった元首相が、今は亡き夫(ブロードベンド)に話しかける老女となっているが…

 監督 フィリダ・ロイド
 出演 メリル・ストリープ、ジム・ブロードベンド ほか

2012.3.12 掲載

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