WEB連載

出版物の案内

会社案内

ウィナーズ!『アーティスト』『別離』

作品賞、監督賞、主演男優賞などアカデミー賞総なめだった『アーティスト』は、文句なしに良い映画。ノスタルジックな白黒サイレントなのに新しく、笑えて泣けて、ワンちゃんまで名演!満ち足りた気分で見終えられること請け合い。
  基本、白黒サイレントでも、トーキー時代到来を表すのに、一部、音を使っていて、それがまた効いている。サイレント部分も、字幕でしか音が表せないことを逆手に取った面白い表現など、音をつける技術がなかったゆえの昔のサイレントとは一味違う。
  こういう洒落た映画を作るのは、やっぱりフランスなんだなあ。

一方、『別離』は同じアカデミー賞の外国語映画賞を獲得したイラン映画。こちらも昨年のベルリン国際映画祭で、最高賞の金熊賞、女優賞、男優賞など主だった賞をさらった。
  まず冒頭が秀逸だ。カメラに向かい、娘に海外で教育を受けさせたいと訴える妻と、親の介護のためイランを離れられないと訴える夫。カメラのこちら側にいるらしい役人と思われる人物に、イランでは望む教育が与えられないのかと問われ、黙りこむ妻。これから始る物語の骨格をわからせると同時に、イランの雰囲気まで伝える。
  記者会見でも、頭を覆うヴェールを外して演じる可能性について答えたサレー・バヤトが、イランを感じさせた。つけるのが自然だから、つけて演じるのに何の問題もないと答え表情を硬くしたのは、当局を意識してのことと思えた。イスラム国家イランの女優陣は、映画中でも会見でも、もちろんヴェールをつけている。
  アスガー・ファルハディ監督は、そういうイランを見せながら、判断は観客に任せる絶妙のタイミングで映画を終わらせている。エンディング・タイトルが流れ出した時に起こった拍手は、そこで終わらせることに対するものだった。その後、あらためて映画に対する拍手が重なっていった。

性的なことから、宗教や政治への風刺まで、フランスは表現に対して開かれた国だ。そんなフランスで良い映画が作られるのに不思議はないとして、イランからも続々と良い映画が出てくる。
  『別離』が出品された年のベルリン映画祭は、審査員として招かれていたイランのジャファル・パナヒ監督が、国に反する映画を作ったということで禁固刑が下り、参加できなかった。そういう国だからこそ、かえって訴えたいことがたくさん出来て、映画製作のモチベーションも高まる?

『アーティスト』4月7日公開 ■ ■ ■

サイレント映画時代のスター俳優にチャンスを与えられた女優。だが、2人の立場は、トーキーの始まりとともに逆転し…

 監督 ミシェル・アザナヴィシウス
 出演 ジャン・デュジャルダン、べレニス・べジョ ほか


『別離』4月7日公開 ■ ■ ■

娘を連れてイランを出ようとする妻と、介護の必要な父親がいてイランを離れたくない夫。ある出来事が家族と周辺に思いがけない波紋を広げ…

 監督 アスガー・ファルハディ
 出演 レイラ・ハタミ、ベイマン・モアディ ほか

2012.4.7 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る