「音楽朗読劇VOICARION(ヴォイサリオン)シリーズ」で独創的な舞台を提供してきた藤沢文翁は、自身の脚本、作詞、演出に盟友、村中俊之の作曲・編曲・音楽監督を得て、2012年に初演した音楽劇「CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ」を初のミュージカルとして完成させた。
ヨーロッパで音楽が黄金時代を迎えていた19世紀に実在したバイオリンの天才、ニコロ・パガニーニの逸話がもとになったオリジナル・ミュージカル。主人公は幼少時より英才教育を受け、人間離れした超絶技巧の演奏をする。彼は芸術家として高みを目指して精進するも、これ以上の段階と人々の期待は自分の実力では叶えられないと苦しんだ時、街外れの十字路で悪魔と出会い、魔が差して、100万曲の名演奏と自己の魂を引き換える「血の契約」を結んでしまう。
音楽劇ではわずか3人のキャスト(パガニーニ/紫吹淳、アルマンド他/山寺宏一、アーシャ/林原めぐみ)で演じたが、ミュージカルでは音楽を司る悪魔アムドゥスキアス(中川晃教)、パガニーニ(相葉裕樹/水江建太Wキャスト)、パガニーニの師コスタ(畠中洋)、パガニーニの執事アルマンド(山寺宏一/戸井勝海Wキャスト)、ジプシー娘アーシャ(早川聖来)、皇帝ナポレオン・ボナパルトの妹エリザ・バナパルト(青野紗穂)そしてパガニーニを愛する気丈の母テレーザ(香寿たつき)の豪華メンバーが務める。
フランキー・ヴァリの非常に鋭く力強く特徴的なファルセットを「ジャージー・ボーイズ」(2018年記事参照)で熱演した中川晃教は、今回も同様に声域を駆使してアムドゥスキアスを歌い上げ、パガニーニの相葉裕樹を契約へと甘く誘い込む。
黒いヴァイオリニストと呼ばれ、死後、棺を受け入れてくれる教会もなかったというパガニーニの運命と、特異な藤沢×村中ミュージカル。改めてもう一度観劇したいものである。(6月10日 シアタークリエ)
2022.8.16 掲載
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