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シアター通よりシアター好き

渡辺晴子
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ミュージカル「お気に召すまま」

マイケル・メイア―演出の「お気に召すまま」はまったくご機嫌なミュージカルだ。1960年代後半のカリフォルニアを舞台に、アーデンの森をサンフランシスコのヘイト・アッシュベリーに置き換えた。宝塚の男役トップスター、柚希礼音の本格的な女優デビューとして、男装もするロザリンドはぴったりで、これに相対するオーランドー役の知性派ながらワイルドなルックスのジュリアンがカッコよかった。

シアタークリエに足を踏み入れるなり、聞こえるのは「ホテル・カリフォルニア」などの当時の曲。この時代に青春時代を過ごした観客には懐かしい限りであり、初めてこの曲を聴く若い観客たちもリラックスさせる。

さて、この劇で一番有名なセリフは憂鬱質のおじさんであるジェークイズ(橋本さとし)が言う。「この世界はすべて、これ一つの舞台。人間は男女を問わず、これ役者にすぎぬ。それぞれ舞台に登場しては、また、退場していく。そしてその間に一人一人が様々な役を演じる。年齢によって7幕に分かれている。第一幕は・・・」。なぜこの人はほかのみんながハッピーなのに、ひとりひねくれて舞台の隅から出てきてこのようなことを言うのか?

オックスフォード大学でシェイクスピアを専攻した国際演劇人の友人によると、この場面で主役の二人を舞台から外す必要があり、そのためにシェイクスピアはジェークイズにこのセリフを言わせることにしたのだとか。それが、今では独り歩きし、劇場によってはこのセリフが劇場の入り口に刻み込まれていたりする。

ミュージカル「お気に召すまま」
劇中の中心人物は2人。ロザリンド(柚希礼音)とオーランドー(ジュリアン)

メイヤーが舞台の設定を1967年の、ベトナム戦争の狭間、サマー・オブ・ラブというヒッピームーブメントの時代に移したのは正解だった。しかし、「権威ある」小田島雄志の翻訳をそのまま使ったので、台詞はミュージカルとしては冗長だった。プレスクラブでは観劇後の飲み会でこの問題で盛り上がった。英語からの翻訳になると日本語はどうしても早口で、かつ長い台詞になる。映画の字幕のように場面に合わせて台詞をカットすればもっと日本語として自然な会話になるのではないか、という人と、シェイクスピアはあくまで忠実に訳すべきだという人で論争になったが、忠実派が多数であった。私は少数派だったが・・・。

ドナルド・トランプに見せたい作品だ。力では何も解決しない。アメリカはポリティカル・コレクトネス以前のラヴ・アンド・ピース時代に戻ればまた世界の人々から愛されるだろう。設定よし、役者よし、音楽よし、台詞・・・うーん。でも見に行く価値はある。〔2017年1月4日-2月4日(東京:シアタークリエ)、2月7日-2月12日(大阪:梅田芸術劇場)、2月15日(香川:レクザムホール 大ホール)、2月24日-2月26日(福岡:キャナルシティ―劇場)〕


2017.2.15 掲載

著者プロフィール
渡辺 晴子(わたなべ はるこ) : シカゴ・サン・タイムズ、アジア新聞財団(東京支局長)を経て、現在HKW代表 メディア・リポート特派員。30年来の(社)日本外国特派員協会会員で、選挙管理委員長、文化企画委員長、副会長、監事などを歴任し、現在は永世会員、特別企画委員長。同協会の講演、文化事業などを企画している。また1972年HKWビデオ・ワークショップ(HKW)創立。国際婦人年であった1975年、市川房枝さん、高田ユリさんなど10人の女性先駆者のビデオ・インタビュー“Women Pioneers”を三カ国語(日・英・中)で制作、世界初のビデオによる女性史として1980年「国連・ユネスコ主催 女性とメディア会議」で発表。1980年―1992年ユネスコ「女性とメディア」開発コンサルタントとして、アジア・アフリカの女性放送者にビデオ・テレビ制作等を指導。
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