これはミュージカル? イべント?ライブ? それとも三部門全部をカバーする革命的な演劇なのか?! 因みに最優秀作品賞はじめ10部門でトニー賞を受賞している。
帝国劇場の客席に一歩入ると、そこはもうベルエポック、1899年の「ムーラン・ルージュ」。パリのモンマルトルに君臨するナイトクラブでは下手に赤い風車がゆるやかに回り、上手には青い象が姿を現している。舞台にはショーを前にしてそぞろあるきするダンサーと彼女らに絡もうとする貴族やゴロツキ、遊び人たち。世界的な作曲家を目指すアメリカの若い詩人クリスチャン(Wキャスト井上芳雄/甲斐翔真)がそこへ物珍しそうに迷い込んでくる……、と開幕のブザーを待たずに「ムーラン・ルージュ!」の舞台が始まる。
ストーリー
ムーラン・ルージュの豪華絢爛なショウの主役はアルゼルチン出身の大スター・サティーン(Wキャスト望海風斗/平原綾香)だが、客数が減ってナイトクラブの経営は破綻の危機に晒されている。クラブのオーナー、ハロルド・ジドラー(Wキャスト橋本さとし/松村雄基)は大金持ちのモンロス公爵(Wキャスト伊礼彼方/K)をサティーンのパトロンにしてクラブを救ってもらおうと計画するが、公爵は財力でサティーンとクラブ両方の支配を目論んでいた。
一方、苦労人のサティーンはジドラーの苦労もショウ仲間の生活をも懸念しながらも、作曲家になるとの夢だけで一文無しでパリにやってきて、こともあろうに自分に一目惚れしたナイーブなクリスチャンに恋してしまう。更に、クリスチャンがモンマルトルで出会ったボヘミアンの友人たち、画家のトウールーズ=ロートレック(Wキャスト上野哲也/上川一哉)、タンゴ・ダンサー、サンティアゴ(Wキャスト中井智彦/中河内雅貴)たちは、デュークの目論見の裏をかいて革新的な舞台を企画し、サティーンとムーラン・ルージュを守ろうとしている。
身体不自由なロートレックは、自身が描いた有名なバレエ・ダンサーの挿絵の垂れ幕の前で杖のキャップを空けて一杯やるのも忘れない。
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帝国劇場「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」
[写真提供/東宝演劇部]
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ミュージカル・ナンバーは原作となった映画からここ100年の曲を引き継ぎ、エルトン・ジョン、デイビット・ボウイ、オッフェンバック、U2等で、訳詩は松任谷由美、宮本亞門ら錚々たるアーティストが担当している。
更に、「ムーラン・ルージュ!」はカンカン・ダンスで世紀末以来の伝統を残しながらも、同時にクラブ・オーナーがゲイであることやダンサーとして競合するが女性仲間としてのシスター・フードにふれるなど現代的センスも見せる。
舞台と観客が完全に一体化したのはカーテン・コールの撮影タイム。ここ3年のコロナ禍の影を払う顧客の歓声やら拍手やら、正に帝国劇場始まって以来の大ライブだった。(観劇:7月9日 帝国劇場/公演は8月31日まで)
2023.7.24 掲載
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