韓国オリジナル・ミュージカル「ダーウィン・ヤング悪の起源」。原作は25歳で若手作家として注目のデヴュ―、31歳で夭折したパク・チリの、祖父、父、息子ヘと三世代にわたるミステリー背景をも秘めた社会派大作。イ・ヒジュン(台本・作詞)、パク・チョンフィ(作曲)、ソウル芸術団のオリジナル制作を日本公演にあたり末満健一が潤色・演出した。
ストーリー
舞台が開くと修道院のようなセット。両袖には灰色の塀。照明とプロジェクション・マッピングでシーンが変化する。ここは200年の歴史を誇る全寮制のプライムスクール。厳格な階級制度に支配された架空の都市は9つに区分され、階級によって住所、仕事が制限され差別や偏見が厳しい。プライムスクールに入学できるのは厳しい競争を勝ち抜いた上級エリアに住む16歳の若者男女のみ。
|
ネクタイの結び方を習う父ニース・ヤング(矢崎広)とダーウィン(大東立樹) |
ダーウィン・ヤング(大東立樹/渡邉蒼Wキャスト)は教育部長官のニース・ヤング(矢崎広)を父に持つエリートだが、厳格な階級制度に疑問を抱いている。同じ思いを抱いているレオ・マーシャル(内海啓貴)と友人になり、校内名物の骨董品交換会で古びた赤いフードとカセットプレイヤーを交換する。
30年前、16歳で殺害されたジェイ・ハンター(石井一彰)の追悼式で感動的な追悼演説した、ジェイの友人だったニース。プライムスクールのドキュメンタリーを制作することになったジェイの弟、ジョーイ・ハンター(染谷洸太)は、ニースとその息子のダーウィンに協力を求める。
ダーウィンが密かに恋する同級生のルミ・ハンター(鈴木梨央)は、伯父ジェイのアルバムから消えている1枚の写真が殺害の謎を解くと考え、ダーウィンと共に最下層エリア第9地区での国立図書館で60年前に起きた“12月革命”の額に瑕のある少年を探す。ダーウィンの祖父ラナー・ヤング(石川禅)の秘められた過去とは? 親子孫三代にわたる運命が交錯する中でダーウィンは自分の道を選ぶ。
大東立樹、内海啓貴、鈴木梨央等若手の等身大の魅力を支えるベテランの石川禅、矢崎広の重厚な布陣と、ポップからミサ曲を思わす広範囲な音楽。過去と現在が入り乱れる壮大な舞台は、日本ミュージカル界に強力なインパクトを与える作品だ。
韓国の歌謡や映像エンターテインメントの日本浸透は著しいが、ハングル語の壁があり舞台芸術は未達だった。ところが長年ブロードウェイやウエスト・エンドのライセンス・ミュージカルを輸入していた韓国は、1986年に文化体育観光部傘下の国立芸術団体としてソウル芸術団を設立。着実に地域公演、教育事業、公演芸術を担う人材養成に貢献しづけている。「ダーウィン・ヤング悪の起源」は正にソウル芸術団ならではの作品であり、韓国からのライセンス・ミュージカルとして海外への輸出が期待される作品だ。もうすでに輸出されているのかもしれない。(2023年6月7日~25日シアタークリエ/6月30日~7月2日兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール)
2023.7.10 掲載
|