古き良き時代を懐かしがるアメリカ人はマーチング・バンドが大好きだ。健康で楽しく周囲を盛り上げ、メンバーともなれば、周囲から一目も二目もおかれる。音楽教授を名乗る詐欺師ハロルド・ヒル(坂本昌行)は、「賭けビリヤードの誘惑から守り、青少年の健全育成のために少年マーチングバンドを結成する」との触れ込みで、中西部の田舎町に高価な楽器、教本、制服を売りつけて、大金を巻き上げては去って行く旅のセールスマン。坂本の爽やかな風貌と甘い語り口が詐欺師仲間の羨望の的になっているのが納得できる。
一方、彼の標的のアイオワ州のリバーシティは、表面善良で且つ頑固で排他的、正に中西部の典型的な田舎町。ジョージ・シン町長(六角精児)とその妻ユーレイリー(森公美子)は、町の偽善的正義を重量級の演技力でアピールする。
ハロルドは図書館司書でピアニストのマリアン・パル―(花乃まりあ)を見染め、彼女の母親ミセス・パル―(剣幸)は歓迎するが、マリアンは司書として資料を検索し、彼の経歴のインチキ証拠をつかむ。が、弟の失語症に寄り添う姿を見て考えを変える。
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ハロルド・ヒル教授(坂本昌行)とマリアン・パル―(花乃まりあ)
[写真提供:東宝演劇部] |
マリアンの歌う静かなバラード「グッドナイト誰かさん」と、ハロルドが高らかに歌い上げる「76本のトロンボーン」は歌詞こそ異なり違う曲のように聞こえるが、メロディーは全く同じ。作曲家メレディス・ウィルソンの洒落た工夫である。
町中がハロルドの魅力に取り込まれ、集金も取り終わった時、ハロルドのライバルが彼の素性を明かすと乗り込んでくる。詐欺仲間の旧友は急いで街を離れろと忠告するが……。
フィナーレは圧巻! 町の子供たちはおろか町長、町長夫人、大人たち、ハロルド、マリアンが黄金色に輝くマーチングバンドの制服に身を包み、舞台狭しと行進する!!
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リバー・シティの住民たち
[写真提供:東宝演劇部] |
1957年「ザ・ミュージック・マン」は、同時期にブロードウエイでオープンした「ウエスト・サイド・ストーリー」の振付と装置デザイン2部門受賞を押さえて作品賞、主演男優賞主要6部門受賞。多くのミュージカル・ファンが非行少年の流血の話より、全員がハッピーで丸く収まる話が好きなのは現在も変わらないようだ。
[公演スケジュール]
- 4月11日-5月1日:東京・日生劇場
- 5月6日-7日:愛知・御園座
- 5月13日-15日:大阪・梅田芸術劇場メインホール
- 5月20日-21日:静岡・静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
- 5月26日-28日:福岡・博多座
2023.5.8 掲載
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