ザ・プロデューサーズ(脚本メル・ブルックス/トーマス・ミーハン 音楽/歌詞メル・ブルックス)は、まさにブロードウェイの通好みのミュージカル・コメディー。スーザン・ストローマンもオリジナル振り付けとして加わっている。いまだに破られていない大記録、トニー賞12部門の制覇も納得できる。
今回の日本語版は、演出・福田雄一、主役のプロデューサーは井上芳雄、スリムな姿がブロードウエイのプロデューサー役には玉に瑕といえなくもないが、パンチのきいた歌とダンスで舞台をリードするだけでなく、出資者の老女たちを虜にする色気も十分だ。
開幕は大盛況のシューバート通り。初日でにぎわう案内係や客たちとブロードウエイに群がる盲目のバイオリニスト、浮浪者、売春婦、警官たちの賑やかなソングとダンス。
プロデューサーのマックス・ビアリストック(井上芳雄)はブロードウエイのキングであったが、今回の新作「ファニー・ボーイ」は評判が悪く、初日で打ち切りとなり破産寸前の状態。一方、レオ・ブルーム(大野拓朗と吉沢亮のWキャスト)は気弱な会計士で、ひそかにブロードウエイのプロデュサーを夢見ている。
|
左から、カルメン/木村達成、レオ/大野拓朗、マックス/井上芳雄、ロジャー・デ・ブリ/吉野圭吾 |
レオはマックスの帳簿を調べているうちに、破産状態を逃れる道を思いつく。初日でコケれば俳優、スタッフは即お払い箱、エンジェルたちの出資金は丸もうけ。収益がないので税金の支払いもなく、プロデューサーは大儲けする詐欺案だ。
そこでマックスとレオは最低の脚本、演出家、俳優を求め大失敗作を計画する。マックスはホールドミータッチミー(春風ひとみ)ら五番街の高級マンションに住む大金持ちの老女たちをたらし込み、次々と小切手をせしめて200万ドルを調達。エンジェルとなったおばあさん軍団が、歩行器を押して踊りながら五番街をシューバート劇場まで行進するストローマンならではの振り付けは快挙。
ヒトラーの崇拝者フランツ・リープキンが書いた「ヒトラーの春」という荒唐無稽な脚本に、最低の演出家ロジャー・デ・ブリと助手カルメンのゲイ・カップル、英語の離せない女優志願のスウェーデン人ウーラを揃える。プリッツルやソーセージの頭飾りをつけた俗悪な衣装のダンサーたちがヒトラー礼賛の歌を歌い踊り出すと、観客たちは激怒して席を立ち始める。
マックスとレオはニンマリするが、想定通りだったのはここまで。公演前に文字通り“足を折った”フランツの代役でロジャー・デ・ブリが「ヒトラーバンザイ」とオネエ流に腰をくねらして踊り出すと、「ヒトラー風刺劇だ」と早合点した観客は大喜び。ナチの鍵十字の行進に笑い転げる。早番の朝刊はいずれも「ヒトラーをゲイ術化した」との劇評ばかり。大コケ間違いなしのショーが大成功!
|
最後列真ん中…ホールドミー・タッチミー/春風ひとみ 前列左端…ウーラ/木下晴香 他出演者たち
|
崇拝するヒトラーをコケにされたと松葉杖のフランツがピストルを持って事務所に殴り込み、大混乱。駆け付けた警官が発見したのは「税務署用帳簿」と「内部用裏帳簿」。
傍聴席から応援する老婦人たちは、出資金は愛するマックスへの御祝儀くらいにしか思っていないが、ニューヨーク市裁判所で厳しい判決を受けて二人は泣く泣くシンシン刑務所へ。
「プロデューサーズ」の洒落っ気は「ポリティカル・コレクトネス」を逆手に取って遊んでいること。下ネタ、ナチ、ユダヤ系米人、劇評家、ゲイだけでなく恐れ多くも出資者である老婦人たちもからかっている。からかわれても面白がっているところが五番街に住む大金持ちの老女たちのゆとりであろうか。
ちなみに、作品の内容と使用言語が成人向きなので、元々原作だった映画は、13歳未満の鑑賞は保護者の強い同意が必要の「PG13」となっている。(2020年11月9日より12月6日まで 東急シアターオーブ)
2020.11.23 掲載
|