近未来のロボットの話と聞いて、最初は若者向きのテクノ・ポップのミュージカルかと思っていた。ところがやはり「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(RIG)は、劇団四季の目指している全家族向きのヒューマンな音楽劇だった。
更に、原作:デボラ・インストール、台本・作詞:長田育恵、演出:小山ゆうなの女性トリオが生み出したストーリーでは、経済的に自立した専門職である弁護士、プログラマーなどの女性キャラクターが強くて格好よく描かれていて、女性観客として気分が良い。
ストーリー
スリムでお洒落なアンドロイドが人間に代わって家事や仕事をする近未来。イギリスの田舎町に住むベンの庭に「タング」と名乗る「四角い胴体に四角い頭」の壊れかけたレトロなロボットがやってくる。両親を事故で亡くして以来、獣医師になる夢も忘れて無気力に過ごしている彼は、「タング」に親しみを感じせっせと世話を焼く。弁護士の妻エイミーはそんな彼に愛想をつかし、親友でありベンの姉でもある同僚のブライオニーの許に行ってしまう。
ベンは「タング」を修理するため、イギリスからカリフォルニアの最新アンドロイド製造会社「マイクロシステムズ」に向かうが、「ここでは修理できない」と、プログラマーのコーリーは彼女の友人のヒューストン宇宙博物館の博士で古い犬型のロボットと暮らすリジ―を紹介する。しかし修理方法は分からず、リジ―は元アンドロイド研究者のカトウを紹介する。
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修理先を求めてアメリカを遍歴する「タング」とベン[撮影/阿部章仁] |
秋葉原で会ったカトウは最先端のアンドロイドを作ったボリンジャーが「タング」の制作者と推測するが、「危険だからボリンジャーを探さず、イギリスに戻ってタングの機能が停止するまで一緒に過ごしたほうが良い」と忠告する。ボリンジャ―のつくったロボットがロボット三原則「人間に危害を加えない、人間の命令に服従する、この二原則に反しない限り自分の身を守る」を逸脱しているのではないかと危惧しているようだ。
地球を一周する旅を共にした「タング」とベンの絆は深まってゆくが、ベンはエイミーとの思い出の品をポケットに見出し、エイミーに電話する。エイミーは新しい外科医との交際を考えているところだった。自分を支える人々と、自分自身の将来を見据えたベンは覚悟を決めてボリンジャーに会いに行く。さて、ベン、「タング」、エイミーの行く末は?
「タング」とパペティア(パペットの操り手)
パペットデザイン・ディレクションのトビー・オリエもこれほど完璧に斎藤洋一郎と長野千紘のコンビが「タング」を動かすと思っていたのだろうか? 繊細な人形遣い文楽の伝統のある日本だが、パペットをミュージカル・キャラクターの厳しい姿勢と動きで支え歌が歌えるのは、劇団四季の俳優ならではの鍛錬であろう。
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ベン・田邊真也と「タング」(パペティア)長野千紘[撮影/阿部章仁] |
「ロボット・イン・ザ・ガーデン」は2004年の「ミュージカル南十字星」以来16年ぶりの一般向けオリジナルミュージカル新作だ。COVID-19で演劇界全体が苦しむ中で、新機軸の作品を生み出した劇団四季の創作活動に拍手を送りたい。(2020年10月3日 劇団四季自由劇場)
2020.10.23 掲載
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