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劇団四季「エビータ」浅利慶太追悼公演

今回のEVITAの舞台での劇団四季俳優陣の交代と継続の力強さには、昨年7月に旅立たれた浅利慶太氏も納得されるのではなかろうか。

新しくエビータ役を務める三人のうちの一人、谷原志音は小柄な体に野心に満ちた瞳を輝かせ、チェの芝清道は冷静で皮肉な狂言回しを継続して務める。

「エビータ」(作曲A.ロイド=ウェバー、作詞ティム・ライス)は1982年浅利氏によるオリジナル演出と訳詩で初公開以来、アルゼンチンの草原地帯パンパの私生児から野心と情熱で大統領夫人へと駆け上がり33歳の短い生涯を閉じたエバ・ペロンの鮮烈な生涯を描く。

オープニングはエバの国葬。軍人たちが棺を恭しく掲げペロン大統領(佐野正幸)が後につづく。国中が狂気のようにエバの死を嘆き悲しむ中、チェ(芝清道)は「サーカス、猿芝居だ」、と冷ややかに眺める。国民から小さなエバ(エビータ)と呼ばれ愛された彼女の実情は、祖国アルゼンチンと民衆を裏切って自身の栄光栄華を求めただけではないか、と。

エビータの生涯を振り返ると、タンゴ歌手に迫ってブエノスアイレスに出るやカメラマン、プロデューサーら男たちを踏み台にして、歌手から女優へのし上がる。福祉大臣になったペロンに近づくと軍人や貴族の反対を退け、労働組合の力を利用して彼を大統領に。

劇団四季「エビータ」浅利慶太追悼公演
民衆を味方にペロン(佐野正幸)とエビータ(谷原志音)は大統領選を勝ち抜く[撮影:上原タカシ]

大統領宮殿カーサ・ロサーダのバルコニーでペロン大統領を称える群衆の歓呼に応えて、エバは「共にいてアルゼンチーナ」を歌いだす。感極まって歌えなくなる彼女に代わって力強く歌いつづける広場の人々。

ペロン大統領を取り巻く軍人たちはエバに反感を募らせるが、ファースト・レディーとなったエバは金持ちや貴族から容赦なくカネを取り立て、遂には社会援助基金(エバ基金)を設立し民衆にばら撒く。杜撰な経理で一部は彼女のスイス銀行の口座に入れた。

劇団四季「エビータ」浅利慶太追悼公演
[劇団四季「エビータ」より]

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「サンタ・エビータ」と聖母マリアのように貧しい人々に慕われたエバに病魔が忍び寄ってくる。最後のラジオ放送で彼女が歌う「共にいてアルゼンチーナ」は消えゆく命の炎のはかなさを示す。

劇団四季代表として数多くのミュージカル上演に立ちあってきた浅利慶太氏は、イギリスのミュージカルで20世紀最高のものはロングランを果たした「キャッツ」だが、完成度から言えば「エビータ」が勝ると言っている。「エビータ」の舞台を彩るラテン、ロック、グレゴリオ聖歌などの中で「共にいてアルゼンチーナ」のモチーフが繰り返され、音楽のタペストリーとして実に見事だ。

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閑話休題。エバ・ペロンの毀誉褒貶は生前から明らかだったが、現政府の駐日大使館では反ペロンが今なお明らかだ。プレスクラブで主催した「アルゼンチン・ナイト」のアンコールに「共にいてアルゼンチーナ」をリクエストしたところ、観衆は大拍手、歌手とギタリストも大喜びしたものの、終演後に二人は大使館員にとっちめられていた。

(浅利慶太追悼公演「エビータ」 東京・自由劇場:2019年6月17日(月)~7月7日(日)、名古屋四季劇場:2019年7月21日(日)~8月12日(月・休)、全国公演:2019年8月25日(日)よりツアー開幕


2019.7.10 掲載

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