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音楽劇「ライムライト」

酔っぱらってフラットに辿り着いたカルヴェロが、ガス臭に気づいてドアを蹴破る馬鹿デカイ音。救いだしたのは若い女性。絶妙のタイミングで流れる音楽は、あのノスタルジックな「Eternally(エターナリー/テリーのテーマ)」。ベタな演出だが、観客はもうチャールズ・チャップリンの世界に取り込まれてしまう。

4年ぶりに東京で再演された音楽劇「ライムライト」は、チャールズ・チャップリンの永遠の名作映画「Limelight(ライムライト)」を原作に、彼の未完の小説「フットライト(原題)Footlights」を加え、大野裕之(上演台本)、荻田浩一(演出)、荻野清子(音楽、編曲、ピアノ)が構築した。

主演のカルヴェロはもちろん大御所の石丸幹二、バレリーナは宝塚出身の実咲凛音が演じる。助演はオルソップ(保坂知寿)、ネヴィル(矢崎広)、他にポスタント(吉野圭吾)、ボダリンク(植本純米)、男性バレエダンサー(佐藤洋介)、女性バレエダンサー(舞城のどか)と、小品ながら個性派俳優の理想的な布陣で心温まる物語を展開する。


老芸人が導くスターへの道

老芸人カルヴェロは元ミュージック・ホールの大芸人だったが、人気が凋落し、元舞台女優のオルソップ夫人(保坂知寿)が大家を務めるフラットで酒浸りの日々を過ごしていた。ガス自殺を図ったバレリーナ、テリー(実咲凛音)は自分にバレエを習わせるため姉が街娼をしていたことを知らされ、ショックで急に足が動かなくなってしまっていたのだ。彼女はリウマチだと言い張るが、カルヴェロは神経的なものだと直感し、テリーを舞台に戻すために、懸命にリハビリを行った。歩けるようになり、踊れるようになったテリーはついにエンパイヤ劇場の舞台でバレエに復帰し、将来が開けた。

音楽劇「ライムライト」
[音楽劇「ライムライト」より]


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自分の役目を終えたカルヴェロは、彼女の初恋の相手で作曲家となったネヴィル(矢崎広)こそ相手に相応しいと判断し彼女の前から姿を消した。哀愁を漂わせ若い娘の前を去る中年男の石丸が実に渋い。ところが、成功を掴んだテリーは自分から年老いたカルヴェロを探し出して、勇敢にも求婚する。老芸人石丸に迫るバレリーナ実咲の若さの勢いが眩しいくらいだ。


最期を飾る大喝采

更に彼女はカルヴェロのためにエンパイヤ劇場を説得して、大芸人に相応しい舞台を設定する。テリーの初恋のネヴィルは徴兵されたものの、休暇を取って二人の公演の観劇に戻ってくる。

映画と同様のシーンだが、シアタークリエの額縁一杯の舞台に舞台上のテリーと楽屋で横たわるカルヴェロ両人の姿を同時に見せ、客席の涙をさそう。

カルヴェロは最後の舞台で、サクラでない本物の大喝采を受けたあと、息を引き取る。彼に代わってアンコールに応えるテリーの姿を見ながら。

主題歌の「エターナリー」のほか、チャールズ・チャップリンの歌としてリストされているのは「サーディン・ソング(いわしの歌)」、「スプリング・ソング」、最後の「ユー・アー・ザ・ソング」だが、「ロンドンの夕暮れ」、「カルヴェロへの野次」、「カルヴェロのフラット」等の音楽(荻野清子)は、まるでチャップリンがその時代に作ったものであるかのように雰囲気を伝えていた。

音楽劇「ライムライト」
元大芸人の誇りをかけて最後の舞台に立つカルヴェロ(石丸幹二)

石丸はミュージカル俳優から舞台、テレビと芸の幅を広げてきたが、芸人としてのエゴと闘いながら若い芸術家を育てようとする老芸人の姿が実に渋く、更に芸域を広げてきたようだ。個性派実力俳優が8人という少人数でチャップリンの名作を演じる姿に、日本のミュージカル界の円熟ぶりを感じる。

千秋楽までまだ間があるので、編集者にこの原稿を送ったら、もう一度観劇したいものだ。(シアタークリエ 4月24日まで。その後大阪、福岡、愛知を巡業)


2019.4.22 掲載

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