世界二十数か国で3600万部以上を売り上げたベストセラー作家で自己啓発の伝道師オグ・マンディーノの少年野球小説「十二番目の天使」が舞台化され、シアタークリエに登場した。また、イチロー選手の東京ドームにおける最終試合での観客の熱狂ぶりを見て、ベースボールがどれほど米国人と日本人に愛されているかを改めて感じた。更に、選抜高校野球も始まっている。「十二番目の天使」はまさに絶好のタイミングで日本に登場したといえる。
ストーリー
ジョン(井上芳雄)は元リトルリーグ エンジェルスを優勝に導いた選手で、ひざの故障でメジャーリーグを諦めたものの、若くしてビジネスで大成功し、妻サリーと息子リックを伴い、故郷のニューハンプシャー州ボーランドの町に帰ってくる。ところが、高速道路の交通事故で一瞬にして二人を失い、幸福の絶頂から絶望のどん底に陥って鬱状態になり、書斎の引き出しに入れたピストルに手を伸ばす状態。そこに現れたのが幼馴染でエンジェルスのチームメートであったビル。彼はジョンにリトルリーグ エンジェルスの監督になれとスタジアムに連れ出す。果たして自分は12人の少年たちの活力を受けとめられるか不安であったが、スタジアムまで出かけて行った。
ボーランドには4チームがあり、監督が順番にメンバーを選んでいくが、一番札で才能あるトッドを引き当てたジョンが12番目に選んだのは他の監督が選ばず最後に残った少年、亡くなったリックにそっくりのティモシーだった。ティモシーは簡単なフライにも万歳してお手上げ。打席に立っても不格好なスイングでの空振り続き。チームメートはクスクス笑って馬鹿にしようとするが、そこをぴしゃりと抑えたのがトッドであった。ジョンはボロボロのグローブで練習するティモシーにリックの残したグローブを与え、居残り特訓を続け、自転車の故障で2時間も徒歩で練習にやってきた彼にリックの自転車も与える。
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ティモシー(左・溝口元太)とジョン(右・井上芳雄) |
ただ、ティモシーのモットーは「絶対、絶対、絶対あきらめるな」で、ピンチのたびごとに大声でチームを激励。彼の熱意につられて、一番の弱小チームと思われていたのが、優勝戦に進出。ティモシーは初めてのヒットを打ち、チームは優勝。野球シーズンを終えたチームは解散する。ビジネスに戻ったジョンにティモシーの秘密が知らされる。
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ティモシー(左・溝口元太)とジョン(右・井上芳雄) |
俳優・装置・音響
オグ・マンディーノの小説を読んだ時に広い野球場を舞台でどう表現するのか心配だったし、ミュージカルスターの井上芳雄が家族向きのストレートプレイでどう集客出来るのかも心配だった。ところが、舞台装置と音響が素晴らしい。シンプルな球場外壁でクリエの舞台に野球盤サイズの球場を表現し、打撃のスウィング、グローブに白球が捉えられる音、自動車の出入りなどはタイミングの良い音響で十分に体感させる。実力派のコンパクトな俳優陣は一人二役以上こなし、見ごたえがある。フィナーレで井上芳雄が「白いボール青い空へ」を歌い、キャストの全員がそれに加わる。ミュージカル俳優、井上芳雄を見に来た人も納得がゆくだろう。
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左から、ティモシーの母ペギー(栗山千明)、 ビル(六角精児)、ジョン(井上芳雄)、ティモシー(溝口元太)、トッド(吉田陽登) |
日本の少年野球の見直しを
また、この舞台を見て、あらためてアメリカのリトルリーグと日本の少年(学童)野球の違いを痛感させられた。リトルリーグは9回戦でなく、6回戦まで、チームに参加した12名(14名の場合もある)の少年たちは必ず一回は打席に立ち、守備もできる。監督が勝負のため一定の選手だけを重用することは許されない。
現在、高校野球界でも投手の投球数制限などの改革案が検討されようとしている。高校生になる前の少年野球で既に野球肘や肩を壊した若者たちを数多く見ている筆者としては、東京公演後に八都市を巡業するこの公演を機会に日本の少年野球の在り方も考えてほしいと願う。(3月19日 シアタークリエ)
2019.3.27 掲載
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