新国立劇場の日本人作曲家委嘱作品シリーズの第一弾として「紫苑物語」が上演された。(原作:石川淳、台本:佐々木幹郎、作曲:西村朗、指揮:大野和士、演出:笈田ヨシ)
原作はいかにも石川淳らしく、幻想的でオペラやミュージカルにしたくなる作品だ。しかし、新国立劇場、芸術監督、大野和士率いるチームの野心な試みが観客の「納得感」を妨げていた。
あちらこちらに違和感があった。
第1幕、婚礼のシーンで60人の合唱があるが、単に舞台上の人数を増やしただけの印象。また、衣装(リチャード・ハンソン)がどこの国のもので、いつのものか、わからない。ヨーロッパ人の考えるオリエンタルなのか?
第2幕はよかった。白装束の千草と宗頼の官能的なからみ、二重唱はマットで二人だけの空間が作られ、視覚的にも集中することができた。
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写真撮影:寺司正彦/写真提供:新国立劇場 |
字幕で日本語と英語が読めたのは親切だった。歌手の日本語が聞き取れなくても雅語の意味が分からなくても直接的な英語翻訳を読めば分かる。背景のプロジェクションマッピング(映像)の切れ味もよかった。
日本のオペラを世界に発信するという、使命感には共感できる。滅多にないオペラの創作に集まった知性にも同情できる。しかし、能やアニメのように世界の観客に受け入れられるレベルかというと、残念ながら、そうではなく、楽しめるものではなかった。
制作準備段階の話し合いで、ダメ出しをする人はいなかったのか? 誰もが非難できない日本有数の権威を集め、巨大なジャパン・マネーを投じた壮大な実験だ。頭でっかちな作品で見ていて疲れる。
広報室に海外公演の予定はあるか? ときくと、この公演後の皆さんの感想による、ということだった。(2月20日:新国立劇場オペラパレス)
2019.3.13 掲載
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