大井町駅の近くにまた新しいキャッツ・シアターが誕生した。
最初西新宿に設置された1062席のサーカスの仮小屋風とは異なり、座席のクッションも深々とした堂々たる1281席の大劇場である。同じなのは壁と舞台を飾る猫の視線から見た3倍~5倍サイズに拡大された都会のゴミ捨て場に重なりあう壊れた楽器やボロ靴などゴミの数々。
キャッツは言わずと知れたノーベル賞桂冠詩人T・S・エリオットの詩をA.L.ウェバーがミュージカル化した作品で、都会のゴミ捨場に集まった人間に飼いならされることを拒否した強靭で個性的な猫たちのお話。年に一度の大舞踏会で天に昇り永遠の命を得るジェリクル・キャットを選ぶ。ミュージカルの古典となっているので老娼婦ネコ、グリザベーラの嫋々と歌う「メモリー」や長老ネコ、オールドデュトロノミーの厳かに唱える「猫からのご挨拶」は人々の耳の底に残っているのではなかろうか?
80年代ブロードウエイのWinter Garden Theaterで米国版Catsをオリジナル・キャストで観劇し、インターミッションで長老ネコのオールドデュトロノミ―にプレイビルにサイインしてもらって以来、キャッツの大ファンとなった筆者はブロードウエイと劇団四季の日本公演の数々でもう何回ネコたちに会っているだろうか?
「ネコに九生あり」というが、劇団四季の24匹のネコたちも入れ替わり立ち替わり、再会するたびに発展している。今回広くなった舞台と両脇、背後の客席から飛びだす猫たちの身体能力は以前にまして向上し、劇団四季のトップに「ダンサーは新体操選手からオーディションするのですか」とジョークで質問したほどだ。
また、これだけロングランが続くと観客たちの間で「お好みのネコ」が出来る。筆者の場合はマジック・キャットのミストフェリーズ。ブロードウエイにトップ・バレエ・ダンサーの堀内元がミストフェリーズで進出してきたときは「これこそマジック・キャット!」と感激し、続いて中国人俳優蔡暁強のミストフェリーズを観た時には「これ以上のネコはいないだろう」と納得していた。
ところがである。今回大井町キャット・シアターでまた一匹お好みのネコを見つけた。松出直也である。耳と胸元が白い小柄で粋な雄猫は舞台狭しと踊りまくり、同じく雄猫のギルバートを空中ブランコに乗せたり、犯罪王マキャヴィティ―に誘拐されたオールドデュトロノミーを手品のように連れ戻す。
家族の話で恐縮だが、筆者の孫娘のお気に入りは幼いシラバブで他のネコたちが忌み嫌う娼婦ネコ、グリザベーラに近づく姿が優しいという。今回のシラバブも無邪気で慈愛心に満ちているのが更に愛くるしい。
新キャッツ・シアターのロビーには、元劇団四季代表で最初に新宿に仮設劇場を設置しキャッツのロングランのキッカケをつくった元劇団代表浅利慶太氏のご遺影が飾られている。日本公演10000回に向けての劇団四季の活動は、浅利氏の大きな誇りと喜びであったのではなかろうか?(大井町 キャッツ・シアター 8月11日よりロングラン)
2018.8.25 掲載
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