原作は有吉佐和子の『仮縫』。
有吉佐和子といえば古典芸能から社会問題までの広範囲なテーマ、エッジの効いた読みごたえのある小説で有名だが、「仮縫」はかつての東京オリンピックの開催前の高度成長の過程にある日本のファッション界の中で力強く生き抜こうとする若い女性の姿をさらりと描いている。
主人公の清家隆子(せいけりゅうこ/檀れい)は上昇志向が強い。洋裁学校の生徒からオートクチュール・パルファンという高級洋裁店に縫子として引き抜かれ、仮縫いの時に落とした針を拾うところから始め、先輩たちの助手を務めているうちに彼女らの技術を盗み、オーナーの松平ユキ(高橋惠子)のお気に入りとなる。
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オートクチュール・パルファンのオーナー、松平ユキ(高橋惠子) |
独立のうわさを流された古参の弟子が松平に冷酷にも馘首(クビ)される姿を見て、自分は独立よりもパルファンの後継者になろうとし、デザインから経営までを身に付けていく。松平のパリの留学中にはパルファンのひどい財務状態を知り、同時に複雑な家族関係も知る。金庫のカギを握るのは、一見女中のように見えるなぞの女性、中村たつであり、ユキの母であった。運転手兼ドアボーイを務める松平信彦(葛山信吾)はユキの弟という。
清家隆子は折りにつけまとわりつく松平信彦より、松平ユキのパリ修行時代からの恋人で画家を辞めて画廊を経営している相島昌平(古谷一行)に惹かれる。
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清家隆子は画廊の主人相島昌平(古谷一行)に惹かれる。 |
清家はパルファンの経営改善のためデパートと提携してプレタポルテ(既製服)のファッション・ショーを企画する。ところが、そのショーの開催直前、パリでデザインした一連のオートクチュールを持参してユキが帰国する。当然観客の歓声はオートクチュールを着てランウェーを歩く大女優とユキに向けられる。
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人生の「仮縫」を終えて「本縫」に向かう清家隆子(檀れい) |
宝塚のトップ娘役を務めた檀れいの清家隆子は爽やか、かつ力強さにあふれてまさに適役。山本陽子の中村たつはいかにも謎の深い女性像だ。古谷一行は包容力を見せ、若い女性が惹かれそうな中年男性だ。葛山信吾は謎の母と実力者の母に挟まれるなかで理想の女性を求める男性の屈折を好演している。人物模様は以上。あとはファッション・ショー。第3幕のファッション業界を志望する学生から公募したデザインをもとにした「パリジェンヌの夢」と「カルメンの幻想」という二つのファッション・ショーは見ごたえがある。(明治座 5月6日~5月28日)
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プレタポルテ ファッション・ショー「パリジェンヌの夢」 ウェディングドレスを着た清家隆子(檀れい) |
2018.5.23 掲載
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