「明治一代女」のお梅を、歌手生活30周年明治座で座長公演の藤あや子が艶やかに演じた。
川口松太郎が自らの小説を新派のために劇化した「明治一代女」は明治座と縁が深い。昭和10年の明治座初演では後の人間国宝、花柳章太郎がお梅を演じた。その後も粋な芸妓の世界の駆け引きと古風な人情の中での色恋は時代を超えて日本人の心を捉えつづけ、昭和31年には新派の創立メンバー水谷八重子もお梅を演じ、新派の古典主要作品となっている。つづいて昭和44年には川口作・演出により美空ひばりが「ひばりの一代女」版を同じ明治座で上演し、昭和56年には水谷の娘、水谷良重(現水谷八重子)もお梅に挑戦している。
各世代の名女優の系列に新しく加わる藤あや子のための脚本は、新しく新派文芸部の齋藤雅文が手掛け、演出は金子良次。歌手生活30年の節目に藤あや子の歌う新曲「命の花よ」、弟役“ビタミン・ヴォイス”が爽やかな三山ひろしの歌う「雪に散る」が劇中の重要な場面を盛り上げ、従来の「明治一代女」とは異なる魅力を見せる。
ストーリー
この作品は、明治座のある浜町界隈で起こった元芸者で待合の女将である梅が、歌舞伎役者に夢中になり雇人の峰吉を殺してしまったという事件にもとづいている。
瓦版に代わって日本で新聞メディアが勢いをつけてきた明治20年。今日の週刊誌報道よろしくゴシップを書立てるが、柳橋花柳界で人気歌舞伎役者沢村仙枝に振られた芸者・秀吉は、恋敵のお梅を東京日日新聞社長の福地桜痴らお歴々の前でなぶりものにする。
歌舞伎役者の襲名披露には莫大な費用を掛けるものだが、それが出来ないお梅は柳橋芸者の全体の恥だと秀吉はお梅をいびる。法律学校に通う弟の武彦は、姉に多額の勉学費用を出してもらっているのを気にして学校を辞めるという。お梅に恋する箱丁の巳之吉は、故郷の田畑を売って襲名費用を調達する。その条件は仙枝が先代「沢村仙之助襲名」を終えた後、芸者をやめて妻となる事。
ところが仙枝も襲名が終われば妻として迎えたいという。思い余って身を隠すお梅を怒り狂った巳之吉が雪の浜町河岸で襲うが、もつれているうちに刃物が巳之吉を殺めてしまう。
行方知れずのお梅は「仙之助襲名披露」の初日密かに楽屋を訪れる。燧石で清めの切り火を切り仙之助を送り出し襲名披露に沸く客席を一目覗いたお梅は、仙枝の着物を抱きしめその場を走り去る。川口の原作小説ではお梅は楽屋で自刃することになっているが、藤あや子版の花道を駆けてゆく行方に観客の思いが寄せられる。
さて「明治一代女」から休憩を経て舞台に戻ってきた藤あや子は、着物から打って変わってのスワロフスキークリスタルの銀色に輝く姿。
着物姿のしっとりした一代女といいイブニングで颯爽と立つスタイルといい、興業界の実力者は30年来ファンを大いに盛り上げる。(終わり)(2017年9月3日~30日 明治座)
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藤あや子と三山ひろしの歌が劇中の重要場面を盛り上げる |
2017.10.9 掲載
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