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ミュージカル「ビリー・エリオット」

ミュージカル「ビリー・エリオット」が10月1日、東京公演の千秋楽を迎えた。

2000年公開の映画「リトル・ダンサー」を原作とするミュージカルは、80年代半ばサッチャー政権による不採算炭鉱の閉鎖に追い込まれた英国北東部の炭鉱町の少年ビリーがバレエに魅了されダンサーを目指す物語で、映画が少年の成長をストレートに描いたのに対し、ミュージカルは炭鉱労働者スト、警官隊との闘争など社会情勢も踏まえて重厚な創りとなっている。(演出スティーヴン・ダルトリー、脚本・作詞リー・ホール、作曲エルトン・ジョン)

主役のビリーは歌、芝居、バレエ、タップダンス、器械体操、フライングまでこなす。2005年ロンドンで開幕した作品は11年間のロングラン。2008年ブロードウエイの進出ではトニー賞15部門にノミネートされ、ビリーを交代で演じた少年3人が主演男優賞を受けるほか10部門を受賞している。

日本ではこれだけの少年俳優は見つからずまた育成不可能なので公演できないだろうと思っていた。ところがである、ファミリー・ミュージカルの劇団四季でもなく、最大手の東宝でもなく「ピーター・パン」のホリプロが見事にやり遂げた。

2015年11月、オーディション。条件は147センチ以下、声変わりしていない少年。応募総数1346名から書類選考で450名。2016年4月、海外クリエイティブチームが2週間かけてダンス、歌、芝居を審査して選んだ10名を翌5月からバレエは熊川哲也氏主宰のK-Ballet School、タップはHIDEBOHのHiguchi Dance Studio、体操はコナミ・スポーツ・クラブなど一流のコーチについて特訓。8月振付補トム・ホッジソン氏による劇中振付、集中レッスンが行われ、2016年12月最終オーディションでビリー役4名に。その後2017年6月公演の途中からビリー役1名追加。

筆者が観劇した日のビリーは木村咲哉、ウイルキンソン先生柚希礼音、お父さん益岡徹の組み合わせ。咲哉のElectricityの弾けたダンスや夢で未来の自分と踊るバレエ、体操、フライングが客席の拍手を独占する。元宝塚トップスターだった柚希の女優振りにも感動した。シガレットの灰を長く垂らしたまま二日酔い気味で少女たちにバレエ・レッスンをするぐうたらな教師がビリーの才能を発見するや、彼女のバレエ魂を目覚めさせ、特訓してロイヤル・バレエ学校に送り出す。亡き母のイメージを重ね慕ってくるビリーへ、教師は最後にこう言い放つ。「自分の教えたバレエは忘れろ、里帰りしてきても二度と会わない」。観客がバックからハンカチを取り出している。

益岡の愚直な父親像がこの作品の時代背景を示す。
長期ストで官憲と戦ってきた中でビリーを男らしく育てるためボクシングを習わせバレエを禁止したものの、彼のダンスの才能を認めると炭鉱夫仲間のカンパで彼をロンドンに送り出す。そして自身はやがて廃坑になる坑道に降りてゆく。英国社会の哀愁が感じられる後ろ姿である。

大阪公演は10月15日に始まる。(終わり)

ミュージカル「ビリー・エリオット」

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(東京公演:TBS赤坂ACTシアター2017年7月19日~10月1日、大阪公演:梅田芸術劇場10月15日~11月4日)

2017.10.9 掲載

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