久しぶりに落ち着いた大人のエンターテインメント。
ロバート・レッドフォードが映画版の極め付きギャツビーなら、ミュージカル版の極め付きギャツビーは井上芳雄だ。
禁酒法の網の目を潜って密売酒で稼いだ巨万の収入で元恋人の住むロングアイランド上流階級の住宅地の対岸に豪邸を構え、毎晩豪勢なパーティーを開きいつか恋人が訪ねてくれるのをじっと待っているのだ。
哀愁の翳を漂わせて、入り江の堤で対岸の船着き場の緑のライトを夜明けまで見つめるギャツビーの後ろ姿。他の俳優なら気障が上滑りして見られないだろう。
ギャツビーはノース・ダコタの寒村出身でありながら周りの生き方に同調せず、上昇志向が強かった。勉強だけでなく貯金やマナーの研鑽に励み、第一次大戦で士官となると出兵前の駐屯先のケンタッキーで名門令嬢デイジー(夢咲ねね)に一目ぼれ。
貧乏人に冷たい南部名門一族のデイジーの母親に追われるように加わったフランス戦線で軍功を立てた褒美としてオックスフォード大学に短期留学したものの、戦争が終われば宿無しとなる。大胆さとマナーを見込まれて密造酒やドラッグで稼ぐマイヤー・ウルフシャイム(本間ひとし)に拾われ、彼のフロントとなって稼いだ巨万の富で謎の富豪として高級住宅地の対岸に豪邸を築いたのだ。
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ギャツビー(井上芳雄)とニック・キャラウェイ(田代万里生) |
隣家に引っ越してきた作家志望の証券マン、ニック・キャラウェイ(田代万里生)の繋がりで、彼のまた従姉妹デージーが対岸に住むトム・ブキャナン(広瀬友祐)の妻となっていることがわかり彼女と5年ぶりに再会する。
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パーティ―で対決するギャツビーとトム・ブキャナン(広瀬友祐) |
豪華華麗なギャツビー邸でのパーティーの客全員のチャールストン・ダンスはパワフルで、タキシードで決めたギャツビーと儚げな白いレースのドレスを着たデイジーのタンゴはセクシーでロマンチック。
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華麗で官能的なギャツビーとデージーのタンゴ |
夢咲のデイジーは甘く可憐でいながら最後には負け犬に冷たい南部美人に適役で、傲慢不遜な広瀬友祐のトムにも納得。ニックと女性プロゴルファー、ジョーダン(AKANE LIV)は狂乱の20年代でのケジメのある知識階級として。マイヤーの本間ひとしと部下のギャングの中年男性ダンサーたちは日本のミュージカルの層の厚さを示して安定感がある。
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マイヤー・ウルフシャイム(本間ひとし)とギャツビー(井上芳雄) |
自動車修理工場を営む畠中洋のジョージ・ウイルソンも、蒼乃夕妃が演じたジョージの妻でトムの浮気相手マートル・ウイルソンも存在感を示す。脚本と主役が優れものなら脇役たちも生きるという見本のような豪華絢爛なミュージカルだ。
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マートル・ウイルソン(蒼乃夕妃)とジョージ・ウイルソン(畠中洋) |
作品の売上高を記録し、連載される雑誌によって筋書きを変えるというF.スコット・フィツジェラルドの作家としての手法を批判し、彼を軽く扱った同時代人でのアーネスト・ヘミングウエイも「グレート・ギャツビー」には一目置いていた。
大胆にしかも華麗にミュージカルに創造された小池修一郎(脚本/演出)「グレート・ギャツビー」はヘミングウェイも評価するのではないではなかろうか、というのは褒めすぎだろうか?(東京:日生劇場 5月8日~29日、名古屋:中日劇場 6月3日~15日、大阪:梅田芸術劇場メインホール 7月4日~16日、福岡:博多座 7月20日~25日)
2017.5.25 掲載
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