WEB連載

出版物の案内

会社案内

オペラ「ルチア」

ベルカント・オペラの最高傑作ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」を東京で楽しんだ。まず3月6日の制作発表会に参加し、続いて3月11日ゲネプロ(総舞台稽古)を観た。

この舞台はモンテカルロ歌劇場と新国立劇場との共同制作により、モンテカルロ歌劇場総監督ジャン=ルイ・グリンダが演出した。指揮ジャンパオロ・ビザンティ、主役ルチアは売り出し中のロシアのソプラノ、オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ。

サー・ウオルター・スコットの小説を原作にした舞台はプロジェクションマッピングによるスコットランド海辺の荒々しい岩場に銃を持って集まる男たちの歌声から始まる。崩れ散る波の飛沫がリアルだ。(美術リュディ・サブーンギ)

17世紀スコットランド。敵対する名門同士の恋人たちルチアとエドガルド(テノール イスマエル・ジョルデイ)は庭園の泉の傍らで結婚を誓いあい、その後エドガルドはルチアの指に婚約指輪をはめてフランスへ旅立つ。イスマエル・ジョルデイの甘い美声が鮮やかだ。

オペラ「ルチア」
[オペラ「ルチア」の写真]



(ボタンをクリックすると写真が切り替わります)

しかし、レイヴンスウッド家を倒し更に権力を固めたいルチアの兄、エンリーコ・アシュトン卿(バリトン アルトゥ-ル・ルチンスキー)は妹をアルトゥーロ・バックロウ卿と政略結婚させるために、恋人レイヴンスウッド家のエドガルドが心変わりをしたとの偽の手紙を渡す。ルチアは失望し、兄の思惑通り結婚承諾書に署名してしまう。妹をだましてまでも名家の隆盛を進めるルチンスキーのバリトンは堂々として説得力がある。

婚礼の儀式の最中に帰還したエドガルドは驚き、指輪をかなぐり捨ててルチアを呪う。悲しみのあまりに正気を失ったルチアは初夜の床で夫の首をはね、血まみれの姿で婚礼の宴の席にフラフラと戻って来る。

オペラ「ルチア」
最大の見せ場「ルチア狂乱」

ルチア狂乱

ここで錯乱状態になったルチアの10分以上にわたる超絶技巧のベルカントが、このオペラの最大の見せ場。ゲネプロ観劇者たちが息を凝らして待ち構えていた。その前の第2幕では声量、演技とも控えめで「これはゲネプロ向きの演技だ」と落胆していたものだが、第3幕終幕近くになって熱がこもってきた。

メトロポリタン歌劇場、パリ・オペラ座、ウイーン国立劇場など世界一流の歌劇場に出演してきたオルガ・ペレチャッコ=マリオッティは新国立劇場の音響を歌手として次のように評価した。「(リハーサルで)舞台に立っていてピアノでもピアニッシモでもよく聞くことが出来た。観客が入った場合どうなるか知りたい」。

ドニゼッティの新作ルチアは2017年新国立劇場初演後、2019年のモナコ建国記念日にモンテカルロ歌劇場での上演が決定している。オペラ小国日本発のオペラが世界の音楽界に貢献するようになったとは嬉しいことだ。


2017.5.9 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る