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ミュージカル「プリシラ」

「プリシラ」は1994年オーストラリアで発表されたロード・ムービーのミュージカル化である。奇抜なドラァグクイーンの色彩とゲイ仲間の友情、父息子のしっとりとした情愛がオーストラリア奥地の原始的な風景の中で混然一体となったユニークな作品だ。

シドニーのドラァグクイーンの舞台は、歌姫が天井からぶら下がって歌っている下でドラァグクイーンが踊るのだが、ドラァグクイーンのティック(芸名ミッチ・山崎育三郎)はマンネリなショーに飽きた観客からブ―イングを浴びせられ、落ち込む。そこに別居中でオーストラリア大陸の奥地に住む妻マリオン(和音美桜)から電話がかかり、息子のベンジー(加藤憲史郎 陣慶昭Wキャスト)がパパにお休みを言いたいという。

息子に自分の仕事をどう説明すればよいのか苦しむティックに、マリオンは「アリス・スプリングスの自分が経営するリゾート・ホテルでショーをすれば」と提案する。そこでティックは最近連れ合いを亡くして意気消沈しているかつてのドラァグクイーン・スターでトランスジェンダー(性転換者)のバーナデット(陣内孝則)とエアーズ・ロックに登ってみたいという若いゲイのアダム(ユナク/古屋敬多のWキャスト)を誘い、「プリシラ号」と名付けた虹色に塗り立てたバスでシドニーからオーストラリア大陸奥地を目指す。

道中女装して入ったパブでは荒くれ男らに痛めつけられたり、バスの故障で修理品を待つ間に親しくなった整備士ボブの薦めで立ち寄った村の村民相手にドラァグクイーン・ショーを始めたところ、エンターテイナーと名乗るボブの妻の珍芸にすっかり食われてしまったり、とハプニングが続く。

ミュージカル「プリシラ」
左から、ティック(山崎育三郎)、バーナデット(陣内孝則)、アダム(ユナク)

華麗な衣装が炸裂する狭間には、同じ一台のバスに乗った三人三様の苦しみと悲しみが見える。バス旅行の間にLGBT(レスビアン、ゲイ、バイ・セクシャル、トランス・ジェンダ―)に対する世間の偏見があからさまに示される。

昨年、渋谷区では同性カップルを結婚に相当する関係と認める条例が施行され、世田谷区、宝塚市でも同様の制度が始まっている。プリシラ号の色彩は監督宮本亜門氏の希望で、原作者の許可を取ってLGBTを象徴する虹色となった。これも性的マイノリティーに対する理解を深める一助となるのだろうか?

印象に残ったのは、ティックの息子のベンジーがパパの仕事は「ドラァグクイーン」だとしてクールに受け止めていたことである。さすが、子供は過去のしがらみに捉われない未来からの贈り物だ。


2016.12.27 掲載

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