「Radiant Baby(燦然と輝くベイビー)~キース・ヘリングの生涯~」は、光り輝く赤ん坊をトレード・マークにNYの地下鉄の空き広告スペースにチョークで落書きするストリート・アーティストからポップ・カルチャーの旗手となり、やがて自身も苦しんだAIDS問題では啓発活動など社会的貢献にも取り組んだキース・へリングの活動をロックとポップで描く。(演出:岸谷五朗 脚本・歌詞:スチュアート・ロス 音楽・歌詞:デボラ・バーシャ)
キース(柿澤勇人)は次々と乗り継いだ地下鉄でNYを駆け巡って、ゲリラ的に独特の赤ん坊や人物のイラストを描きまくる。アート作品は美術館やお金持ちの専有物でなく、一般の人々が楽しめるものであるべきだというのが彼の信念だ。その現場を撮影する仲間はカメラマンのツェン・クワン・チー(平間壮一)だが、ある晩ディスコのDJ、カルロス(松下洸平)に出会うなりお互いに魅了されてしまう。耳をつんざくロックの中で結ばれるキースとカルロスの姿は刺激的だ。
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(左より)松下洸平、柿澤勇人、知念里奈、平間壮一 |
チョーク画が世間の評判になると、画廊からも企業からもお声がかかり多忙となる。そこで、NYの名門女子大バサール出身のアマンダ(知念里奈)が画廊から秘書兼マネージャーとして推薦されてくる。このアマンダとキースが自ら絵をかくのを手ほどきしている3人の子どもだけはストレイトで、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)のトンガッタ舞台に不安を感じる観客に多少の安定感を与えている。
キースの尊敬するアンディ・ウォーホルはポピュラー・アートとコマーシャリズムを両立させても非難されなかったが、キースが商業的に人気を集めた時は世間からバッシングされてしまう。
沈み込みうつ状態になったキース。ここで既に亡くなったアンディ・ウォーホルが突如舞台に現れ、「絵が一般商品として取り扱われないように希少価値を高め、オークションには身内を忍び込ませて値段を吊り上げる」などイメージを確立する方法を教える。
しかし、エイズに罹って余命を知ったキースは、子供たちからの手紙で絵を教えていた頃の自分の姿に還り、死の直前の2年間にはあり得ないスピードでエイズ啓発・啓蒙のポスターを描いたり、国際機関の壁画制作など社会奉仕活動と芸術活動に命を燃やす。
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キースと子どもたち |
1993年というと23年前になるが、ブロードウエイで一番の話題作ということで“Angels in America”を観劇した時はサワリの場面になると客席はザワザワし、筆者も落着けなかった記憶がある。しかし、渋谷区他でも同性婚を認知するなど日本社会でもLGBTなど多様な生き方に対する理解が広がってきたため、この「光輝く赤ん坊」の生き方にも共感を示す観客が多くなるのではないだろうか。(東京/シアタークリエ 6月6日~6月22日、大阪/森ノ宮ピロテイホール 6月25日~26日)
2016.6.14 掲載
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