“スコット&ゼルダ”(作曲:フランク・ワイルド・ホーン、脚本・作詞:ジャック・マーフィー、演出:鈴木裕美)は“サンセット大通り”などと同じくほろ苦い大人のミュージカルだ。
主演のパワーあふれる濱田めぐみのゼルダと、ウエンツ瑛士の小心者で我儘なスコット。この配役の組み合わせが絶妙。この二人を支える山西惇の二流ライター、ベン・サイモンの粘こい演技と、ゼルダの主治医から飛行士、バレエダンサーまで8人の多彩な役をさらりとこなす中河内雅貴のクールな熱演は特筆もの。
鈴木裕美の演出は、ゼルダのインタビュー部分はストレイト・プレイで回想場面に入ると突如としてショウとなる。メリハリが利いた構成で格好がいい。
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F・スコット・フィッツジェラルド(ウエンツ瑛士) |
ストーリー
ゴシップライター、ベン・サイモンは、新たなスキャンダルの種を探して「グレート・ギャツビー」(華麗なるギャツビー)の作家F.スコット・フィッツジェラルドの妻ゼルダ・セイヤ―をアメリカ南部の精神病院に訪ねる。
インタビューの進む中でゼルダの言動を小説のネタにし、フラッパーの生き方を教唆していたスコットの小説製作法が明らかになる。
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粘っこくゼルダ(濱田めぐみ)にインタビューするベン・サイモン(山西 惇) |
舞台中央の回転ドアが効果的に使われている。40歳の精神病院入院中のゼルダが回転ドアを一転すると、アラバマ州の地方都市モントゴメリーでパーティーを楽しむ18歳のガール。病人用茶色のガウンから真っ赤なドレスの似合うティーンに変身する濱田の登場ぶりが鮮やかだ。巡り合ったスコットとゼルダの歌うワイルドホーンの「運命の二人」が美しい。
1920の“失われた世代”の寵児となったスコットは、ベストセラー天才作家として妻ゼルダの奇行と共に社交サロンや新聞にもてはやされる。
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毎夜豪遊するゼルダとスコット。センターは支配人(中河内雅貴) |
ゼルダはフラッパー第一号としてスコットに称賛され、ニューヨークで車のボンネットの上でのダンスやシャンパン漬けの生活をメディアに喧伝されたのは、実はスコットに利用され彼の小説の売り上げのための広告塔になっていたと気が付く。
ゼルダの個人的な日記もそのまま引用し、ゼルダが抗議すると「僕の小説で昇華され作品となったので僕のものだ」と強弁。幾ら1920年代の当時とはいえ、スコットはゼルダに著作権やプライバシーがあるなど微塵も気が付いていない小児ぶりだ。
ゼルダが自分の日記が小説のネタになったことを出版社に頼まれたスコットの小説の批評に書くと、スコットは興奮して烈火のごとく怒る。
リヴィエラ滞在中にゼルダが飛行士(中河内雅貴)に恋してスコットに「離婚したい」と主張すると監禁されてしまう。ゼルダの言動からのインスピレーションがなければスコットは創作活動が出来ないからだ。
ゼルダは自己主張の場を絵画やバレエの道に求めるがいずれも成功せず、改めてスコットの才能を認識するが「私が彼のものでなくなったから、世界は彼のものでなくなった」と宣言する。とはいえ、二人の仲は既に切るに切れない。スコットを偲んで熱唱する濱田ゼルダの迫力に観客は圧倒される。
何億年もの時の彼方で
朽ち果てた夢の欠片のように
あなたとの愛は 冷たく硬い
・・・・
懼れもせず 登りつめ
刹那の夢 飲み干した
同じ景色 見た二人よ
あの景色
二人のもの
病室で一心に小説を書くゼルダのタイプライターを叩く音に合わせて、机の上で8名のタップダンサーが踊りだすショーの場面は秀逸。
ストレイト・プレイに戻って「あなたは小説を書く時、自分を天才だと思っていますか?」執筆中のゼルダに迫られて、生活のために原稿を書き飛ばすベンは返事につまる。その作家らしくない曖昧な態度に荒れ狂うゼルダを見て、医者はベンを退出させる。
病院を出たベンが改めてゼルダの病室を振り返ると、執筆中の部屋は灯りが燈ったままだ。精神を病みながらも小説に邁進するゼルダを取材したベンは、作家としての在り方を考え直す。編集者にスキャンダルの出稿を断り、二人が一緒に眺めた景色を「スコット&ゼルダ」とタイトルで真摯に執筆しようと決心する。
華麗なるショウが繰り広げられる舞台の片隅でじっとそれを見つめていた狂言回し役ベン・サイモンが演目の最後にソロで歌うのは面白い趣向だ。
2015.10.27 掲載
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