「ヨシオと城田優をくらべるのはパイナップルと・・・」「マンゴを比べるようなものですか?」
“エリザベート”の公演前にプレス・クラブに立ち寄ったシルヴェスター・リーヴァイさんと私の会話だが、城田優のトートを観て背筋が寒くなった。
そり削った頬の妖しいまでに凄惨な美しさ、異界の翳を漂わす佇まい。最初に舞台に現れた時からカーテン・コールに至るまで、冥界の帝王トートのイメージを崩さない。
一方、井上芳雄の方はあくまで「井上芳雄のトート」だ。ところどころにこぼれる、穏やかさ、丸みを帯びた頬の線。カーテン・コールの笑顔は正に黄泉の国の帝王にまで成熟した初代ルドルフの井上芳雄そのものである。なにを演じても井上芳雄はスター井上芳雄。ファンにとってはこれがたまらない魅力なのだろう。
“エリザベート”(脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツエ、音楽・編曲/シルヴェスター・リーヴァイ)がウイーン初のミュージカルとして日本上陸以来19年。今回の帝国劇場公演(演出・訳詩/小池修一郎)は配役、美術、音楽共にバージョン・アップして豪勢な造りとなっている。
劇場に入ってまず目に付くのは舞台上の巨大なハプスブルグ家の霊廟。ひび割れた棺や柱はハプスブルグ家に迫りくる崩壊を示唆するようだ。(美術/二村周作)
エリザベートのWキャストはともに宝塚出身の花總まりと蘭乃はな。冥界の王者トートを一目で魅入らせた若い素直なシシィから、厳しい皇太后ゾフィーと頼りない夫フランツ・ヨーゼフの下から自立をはかり懸命に生きる姿。最後にはトートの愛を受け入れるまでの好演は甲乙つけがたい。エリザベートの殺人犯で狂言回しのルイジ・ルキーニはミュージカル界の若手トップ・山崎育三郎と異色の歌舞伎役者・尾上松也のWキャスト。初演以来12年間ルイジを演じた大ヴェテラン高嶋政宏からの世代交代だ。
全てに渡って贅沢な“エリザベート”の唯一の欠点は、この舞台の観劇後ではどのミュージカルも安直に見せることだろう。(帝国劇場8月6日まで公演)
2015.7.13 掲載
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