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ミュージカル「ヴェローナの二紳士」

これはお芝居というより「オマツリ」。
  舞台正面に白いスクリーンが降りてくると、お向かいの日比谷公園で男女の若者たちが「フリー・ハッグ」の札を胸にぶら下げて誰彼となく抱きあっている映像が映し出される。

オヤッと思ったら日生劇場の客席入口から件の若者たちがどやどやと押し寄せてきて、観客たちをハッグしながら舞台に上がって行く。これがシェイクスピア生誕450年記念、脚色・歌詞 ジョン・グエア、音楽 ガルト・マクダーモット、上演台本・演出・振付 宮本亜門の「ヴェローナの二紳士」の始まりだ。

第一幕の舞台は落書き風の書割。門柱の真ん中にシェークスピア翁の似顔絵が掲げてあるのは、これから始まる彼の作品のパロディーの予告か。

さて、ヴェローナの片田舎で暮らすプロテュース(西川貴教)は恋人のジュリア(島袋寛子)に夢中で大都会のミラノに行って見聞を広げようと誘う親友のヴァレンタイン(堂珍嘉邦)の誘いを断るが、ジュリアと契ったのち父の命令で同じくミラノに向かう。

ミュージカル「ヴェローナの二紳士」

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大都市ミラノはまるでタイムズ・スクエア。ヴァレンタインは代書屋を始めるが、アラブ人の恋人エグラモーへの文を依頼してきたミラノ大公の娘シルヴィア(霧矢大夢)に一目ぼれ。一方ミラノにやってきたプロテュースはジュリアからシルヴィアに目移りして、ヴァレンタインを追放させようとする。

ムッソリーニのパロディーである大公は金持ちのチューリオと結婚させ、「集団的自衛権」を行使したくてたまらないのだが、男装してミラノにやってきた懐妊中のジュリアと侍女ルーセッタの働きでその夢が消える。

音楽もロック、レゲエ、ヒップホップ。チューリオのサンバでは胸の筋肉が六割のムキムキ男がキューピッドになったり、この作品のセントラル・パーク公演の折りには、中国人だったエグラモーが時節柄に合わせてイスラムになってアラジンの魔法のランプから有毒ガスをまき散らす。

三選されたばかりの安倍首相をチクリと刺したり、イスラム国をカラカッタリ宮本亜門の演出はやりたい放題。シェークスピア翁もわが意を得たりとニンマリしているだろう。
(2014年12月7日より12月28日まで日生劇場、その後福岡、名古屋、大阪で公演)


2015.1.13 掲載

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