ウイーン・ミュージカルの人気作「モーツァルト!」(脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ、演出・訳詞:小池修一郎)は12年前2002年に日生劇場にて日本初演、今回の帝劇公演で5回目となる。
23歳で初演以来ヴォルフガング・モーツァルトを演じ続けてきた井上芳雄は、モーツアルトの没年と同じ35歳となったため今回の公演で「卒業する」と宣言してきた。今後はミュージカルだけではなく、ストレイト・プレイや他のジャンルにも通じる役者として活躍する予定だ。かつて「オペラ座の怪人」のラウル役でデビューした劇団四季のプリンス石丸幹二が、今や渋い中年の主役としてミュージカル以外の舞台やテレビで人気を集めているのを見ると、筆者にはそれも納得できる。
しかし、「僕こそミュージック!!」の井上を「君こそ永遠のヴォルフガング!」と決めつけていた熱烈なファンたちは諦めきれないようで、彼の最後の舞台である帝国劇場の客席を満杯にして井上の一挙一動に拍手を送っていた。
筆者は井上とダブル・キャストを組んでヴォルフガングに二度目の挑戦をしている山崎育三郎の公演も観劇したが、どちらかというと上品な井上ヴォルフガングに比べて自由奔放な山崎も捨てがたい。井上が卒業するなら世代交代があってもよいのではないかと思う。
そもそも、なんて偉そうに言うと、市村正親(ヴォルフガングの父レオポルト)、山口祐一郎(敵役のコロレド大司教)プラス宝塚OGなどのヴェテランに囲まれて二カ月も舞台を務めれば、アマチュアけの抜けない若いスターも着実に成長するだろう。市村の「私ほどお前を愛する者はいない」、山口の「神が私に委ねたもの」の歌唱力はもはや伝説の域だ。
女性の音楽家は社会から認められない時代に自分の才能を殺して弟ヴォルフガングを支えた姉、ナンネール(花總まり)、とヴァルトシュテッテン男爵夫人(Wキャスト春野寿美礼・香寿たつき)の宝塚OGたちの優雅さ、セシリア・ウェバー(ヴォルフガングの妻の母 阿知波悟美)、エマヌエル・シカネーダー吉野圭吾)等の庶民派の実力も主役二人を盛り立てている。
今回もソワレの公演時間を15分早め、モーツアルトの分身アマデの子役として頑張るトリプル・キャスト(内田未来、柿原りんか、日浦美菜子)がカーテンコールで観客の拍手を受けるのは嬉しい。(帝国劇場2014年11月8日から12月24日まで)
2015.1.8 掲載
|