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「シェルブールの雨傘」

60年代に青春を過ごした映画ファンにとって、ミシェル・ルグラン作曲による恋人たちのテーマ“シェルブールの雨傘”の短調の甘いメロディーは、耳について離れないのではないだろうか。

1963年、第17回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール受賞のフランス・ミュージカル映画「シェルブールの雨傘」(1964年日本公開)は、50周年を記念したミュージカルの再演となった。


適役 野々すみ花と井上芳雄

足の悪いおばと二人で暮らす自動車修理工20歳のギイに井上芳雄、恋人の雨傘屋の母娘家庭の16歳の娘ジュヌヴィエーヴに元宝塚娘役トップの野々すみ花。この二人の爽やかさが50年前の作品を今日でも共感できる恋物語としている。若い二人の恋仲を無残に裂いた時代背景にあるアルジェリア戦争は60年前に終わっているが、今なお地域紛争は絶えることがないのが現代社会だ。

一幕冒頭、小雨の降るシェルブールでのギイとジュヌヴィエーヴの街角の出会いが小粋。白いレインコートのジュヌヴィエーヴに白いコートのギイが出合い頭にぶつかると、ふんわりと舞台の上に落ちるピンクの雨傘。目を見張るジュヌヴィエーヴのピンク色のワンピースは、60年代に流行したお洒落なAライン。物語はここから始まる。

恋仲になった二人はジュヌヴィエーヴの母の営む傘屋を売ってガソリン・スタンドにする希望をもつが、母は8万フランの負債の返済を迫られる。母の宝石を買ったのが中年で裕福な宝石商カサール。

幸福の絶頂にいる二人に突然の不幸が襲う。ギイがアルジェリア戦争に召集されたのだ。
  最後の一夜を共に過ごした後にシェルブールの停車場で別れを惜しむ二人。駅札の下でギイを見送る17歳になろうとしている野々すみ花の清純な姿を浮かびだす照明が細やかだ。

ミュージカル「シェルブールの雨傘」

二幕はフランス西部の港町から遠く地中海を隔てたアルジェリアの戦線に急変する。お腹の赤ちゃんを気遣うジュヌヴィエーヴは便りを待ち続けるがギイは戦場で書き出した手紙も激戦で送れない。

「例え遠く離れていても、君を愛し生きてゆく、会える日を信じて、、、」。 同じ“シェルブールの雨傘”の甘いメロディーの繰り返しだが、歌詞が悲痛な叫びとなる。
  敵の攻撃の中、必死で恋人を想って熱唱する井上の真摯な表情が観客の胸を打つ(筆者は舞台から二列目中央席で観劇という滅多にないチャンスに恵まれた)。

一方、母の宝石を買ったカサールは彼女にジュヌヴィエーヴとの結婚を申し込む。3か月の返事猶予期間の内にもお腹は膨らみ、戦闘中のギイからは音沙汰なし。ジュヌヴィエーヴは母子共に受け入れてくれる寛容なカサールとついに婚礼の式をあげる。

傷痍軍人として除隊後シェルブールに戻ったギイは、冷たい現実を前に荒れまくる。しかし、おばの死後は彼女の介護人であったマドレーヌと結婚。その後、ガソリン・スタンドを立ち上げ、息子フランソワを中心に穏やかな家庭生活を送るようになった。

月日がたった或るクリスマスの宵、結婚後初めてシェルブールを訪れたジュヌヴィエーヴは、娘のフランソワ(ただし舞台には登場しない)と共に自家用車にガソリンを入れるためギイのスタンドに立ち寄る。ミンクのコートに包まれたスリムな姿。「ハイオク満タン?」と店員が聞くのはきっと高級車だからだろう。ギイの頬にそっと手を触れて立ち去るジュヌヴィエーヴ。

プレゼントのショッピングから帰ってきた息子フランソワとギイの二人に、今度は雨ではなくシェルブールの雪が絶え間なく降り注ぐのであった。

ミュージカル「シェルブールの雨傘」

同一のメロディーをカバーして一本の舞台に纏め上げる。配役の妙もあり、粋で技ありのミュージカルだ。

因みに「シェルブールの雨傘」はストーリーがシンプルで解りやすいため,その和仏対訳シナリオ(白水社)が高校のフランス語副読本として使用されている。若い学生たちにも是非観劇を薦めたい。(9月21日までシアタークリエ。その後、福岡、大阪、名古屋で公演)


2014.9.11 掲載

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