オリンピックで来日する海外からのお客様に是非観劇してもらいたいバレエは、新国立劇場芸術監督デイヴィッド・ビントレー氏の離日前の最後の作品「パゴダの王子」だ。(音楽/ベンジャミン・ブリテン、振付/デイヴィッド・ビントレー、装置・衣装/レイ・スミス)
クール・ジャパンを世界に売り出すような機転が利いた面白い作品となっている。
筋書
菊の国の皇帝は幼い王子の埋葬後は生気を失い、宮廷は妹の王女さくらを邪険に扱う継母の皇后エピーヌの牛耳るままになっている。数年後、年頃になった姫をエピーヌは東西南北4か国からの最も条件の良い王を選び嫁がせようとするが、彼らの貢物も求婚アピールも、亡くなった兄を恋い慕うさくら姫の心を動かすことは出来ない。
5人目の求婚者として現れたのが奇妙なサラマンダー(オオトカゲ)。さくら姫は物欲と快楽に嵌った継母や4人の王たちよりもサラマンダ—と暮らすことを選び、魔物や怪物の襲撃をかわしてパゴダの国に辿り着く。そこに現れたのは亡くなったはずの兄で、魔女である継母に呪いでサラマンダ—に変身させられたことを話す。
パゴダの国から戻った姫はサラマンダーとともに皇帝に真実を告げ、皇后エピーヌを宮廷から追放する。人間の姿に戻った兄妹は皇帝を支え、王国は再び安泰となる。
アジアの中の日本
大円団は桜花溢れる舞台に大旭日と富士山、「これでもか!」と日本を印象づける。衣装は変なジャポネスクではなく、かなり本格的な和服。また、日本は東洋の国であることを示すためか、バリ島のガムランとの協演がユニークだ。
サラマンダーの鎌首を持ち上げる動き、腕の振り、これはバレエというよりコンテンポラリー・ダンスと呼びたいほどの大胆なビントレーの振り付けだ。
小野絢子のさくら姫は可憐で気品があり、福岡雄大はサラマンダーとして踊るアクロバチックなダンスと、本来の王子に戻っての優美なソロとの際立った違いが見事だ。またサラマンダ—の手下の妖怪たちのユーモラスな姿はまさにクール・ジャパン!
昨年2月、小野、福岡のコンビはバーミンガム・ロイヤル・バレエにゲスト・プリンシパルとして出演したが、「パゴダの王子」は英国マクミラン版から菊の国日本に題材をとったビントレー版としてバレエの歴史に残るのではなかろうか。
2014.9.6 掲載
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