TBSテレビ・ドラマ「半沢直樹」で憎々しい意地悪支店長を演じていた石丸幹二がエドモン・ダンテス/モンテ・クリスト伯で本来の颯爽たるミュージカル・スターに戻った。
「モンテ・クリスト伯」(原作:アレクサンドル・デュマ 脚本・作詞:ジャック・マーフィー 音楽:フランク・ワイルドホーン 演出:山田和也は)デュマの膨大な大作からサブ・プロットを削って本筋に絞りこみ、2時間半のミュージカルにまとめている。
ナポレオン皇帝が失脚してエルバ島に流され、フランスに王政が復活したが、政権はナポレオン支持者に厳罰を持って対処している。マルセイユの航海士エドモン・ダンテスは船長に頼まれた手紙を届ける役目を引き受けたがため、彼の婚約者に横恋慕する仲間の航海士モンデゴに告発され、身の安全を図る検事によって冤罪で投獄される。
教会で祈る婚約者のメルセデス(花總まり)。元宝塚のトップ娘役の名に恥じない清楚な佇まいだ。彼女の背後の紗幕の奥には孤島の牢獄で無実の罪に苦しむエドモン。二人の歌う“ただ そばにいる”の暗い情景が哀しい。エドモンは髭も髪も伸び放題だが、日時を忘れないよう壁に毎日一筋ずつ彫りつけている。絶望したエドモンが首を吊ろうとした時、床から現れたのはファリア神父(村井國夫)。村井ならでの重厚、不屈の司祭ぶりだ。彼も無実の罪で投獄されていたのだ。
脱獄のため穴を掘り続けていたファリア神父はエドモンを教育し、隠していた財宝のありかを教え、死期を悟ると自分の死体とすり替わっての脱獄を勧める。「さあ行きなない。生き抜いて人を許しなさい」。
暗い一幕目だが幕切れでエドモンが海賊船に泳ぎつくと、場面が一転して明るいラテン色になるのが鮮やかだ。
海賊船の女性船長は彩吹真央(濱田めぐみとWキャスト)彼女も宝塚。元男役のトップスター。荒くれ男どもを指揮してエドモンを誰何する「男前」だが、コートの裾から見え隠れする脚線美が見事。エドモンとの絡みが海賊船上とローマの地下墓地しかないのが残念だ。
財宝を得てモンテ・クリスト伯を名乗ったエドモンはパリ郊外に豪華な邸宅を構え、復讐を開始する。彼を裏切った仲間と検事(ヴィルフォール/石川禅)を大宴会におびき寄せる。男たちが外見と富に惑わされる中、エドモンが死んだとだまされて心ならずも裏切者モンデゴの妻となったメルセデスだけは彼の正体を見据えていた。
19世紀前半、皇帝ナポレオンがエルバ島に流刑された歴史的背景の説明、エドモンが投獄された孤島の牢獄、海中での脱出、エドモンと婚約者のメルセデスの心情など照明、映像、紗幕利用などハイテク舞台効果が見事だ。
再演が続く東京のミュージカル界だが、久しぶりに骨太の本邦初公演の舞台を楽しめた。(12月29日まで 日生劇場)
2013.12.21 掲載
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