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新国立劇場「バレエ・リュス」

「新国立劇場のバレエは国立ならではの演目がある」
  ロビーで出会った牧阿佐美先生(新国立劇場バレエ研修所長)はいみじくも喝破されたが、「バレエ・リュス ストラヴィンスキーの夕べ」は正にこの種の作品だ。

つまり、バレエの古典でかつ問題作なのだが、上演に多数のダンサーを要し、ある程度以上のバレエ愛好家でなければ観劇しないような作品だ。クリスマスでもないのに「クルミ割り人形」と「白鳥」の二点張りでチケットの売り上げを確保しようとする民間のバレエ団とは異なり、入場料の多寡に左右されない国立ならではのナンバーである。

新国立劇場「バレエ・リュス」

フランス語で“Ballets Russes”(バレエ・リュス)、つまりロシア・バレエ団は20世紀初頭ロシア出身の稀代のプロデューサー、セルゲイ・ディアギレフによって結成されたバレエ団で、20世紀初頭のパリを中心に彗星のごとく欧米を駆け抜けた。

ディアギレフの功績は当時のトップ・アーティストとコラボレーションして、当時は男性の遊興の対象にまで落ち込んでいたバレエを「総合舞台芸術」の域までに復活させたことである。

彼の作品には音楽ではストラビンスキー、ドビュッシー、シュトラウス、衣装シャネル、美術ピカソ、ユトリロ、ローランサン、振付ではフォーキン、バランシン、ニジンスカなどが協力し、そのレパートリーは今なお世界のバレエ団で上演されている。

新国立劇場に2001年4月バレエ研修所が誕生して12年。海外からのバレエ団を代表するスターたちとも共演するダンサーたちの成長は眼をみはるばかりだ。

ロシア民話劇を原作にしたバレエ「火の鳥」ではミハイル・フォーキンは火の鳥にエキゾチックな振付、王女ツァレヴァナに清純なダンスを振っている。新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子はイワン王子(山本隆之)と駆け引きする火の鳥ではセクシ—。「アポロ」(振付ジョージ・バランシン)ではアポロ(福岡雄大)と踊るミューズのテレプシコールで優雅な動きを爽やかに示す。ロシア農村の習俗を近代的に復元した「結婚」(振付ブロニスラヴァ・ニジンスカ)は新国立劇場バレエ団ならでの一糸乱れぬアンサンブルが見事だ。

新国立劇場「バレエ・リュス」

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新国立劇場バレエ芸術監督デヴィット・ビントレー氏の任期は今年が最終年度にあたるが、バレエ・リュスのレパートリーは広く深い。今後ともその代表作をこの劇場で上演してほしいものだ。

幕間ではロシアでのイベントを終えて帰国したばかりの牧阿佐美先生にダンサーたちが次々に報告に現れる姿が心強かった。(2013年11月13日 新国立劇場)

2013.12.4 掲載

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