「エディット・ピアフ!」司会者に紹介されて舞台に現れたのは干からびた手指だけ。よろよろと赤いカーテンを握りしめてそのまま幕内へ消えてしまう。再び司会者に促されて現れたエディットは背中が曲がり顎を突き出した蟹股のまさに老女。マイクを掴んだまま舞台上でぶっ倒れる。
舞台一転してパリのナイトクラブ「ジェルニーズ」の前で、流行の「雀のように」を大声で歌う年若い活力に溢れたエディット。支配人にスカウトされてクラブ内でオーディションをうけるが、店内の贅沢な雰囲気に気押されてオドオドして声がでない。ところが度胸を決めて街角で投げ銭を集める帽子を足元に置くや地声が戻り、例えナイフやフォークの音がガチャついても店内に響くデカイ歌声がでて無事採用となる。
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ミュージカル「ピアフ」(脚本:パム・ジェムス/演出:栗山民也)は2年ぶりに東京での再演となり、大竹しのぶは疾風のように駆け抜けた伝説の歌手エディット・ピアフの少女時代から晩年までを熱演する。
娼婦の佇む街角で一緒に過ごした仲間のトワーヌ(梅沢昌代 好演)と卑猥なジョークを交わしたり、一緒になって第二次世界大戦中に帰還兵やレジスタンスの若者たちに無料のセックスを提供してもエディットは常に自然体。観客を虜にする。特に、目を左に流して瞳をキラリとさせると年齢不詳のいたずらっ子のようで実に可愛い。
拳闘家マルセルを追慕して歌う「愛の賛歌」、盟友マレーネ・ディートリッヒ(彩輝なお カッコいい)と和やかに合わせる「バラ色の人生」。特に晩年の心境を伝える「水に流して」。“もういいの、もう後悔しない、、、”が見事。エディットの魂が舞い降りた大竹がこの歌を聞かせると、観客席の方々からすすり泣きが漏れてくる。
エディットはイヴ・モンタン、シャルル・アズナブールなど数多くの若人をシャンソン歌手に育てたが、大竹しのぶの「ピアフ」再演では、この二人の男性歌手を演じた藤岡正明、小西遼生が存在を示そうとしている。
東京公演から巡業が終わるまでに大竹しのぶは若いキャストたちにどれだけ影響を与えるのだろうか?(2月13日までシアタークリエ、その後福岡と大阪巡業)
2013.2.8 掲載
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