ニール・サイモンの台詞のタイミングとリズムが絶妙だ。(翻訳小田島雄志)
二人ミュージカル「デュエット」(邦題)はウエル・メイド・プレイでもあり、客席は最初から最後までニュアンスのあるジョークにクスクス笑わされていた。
二人の個性は鬱と躁
70年代のニューヨーク人種のステイタス・シンボルといえば、かかりつけの精神分析医を持つこと。「偉大なる才能は不安に根ざしている」と長椅子に横になって話を聞いてくれるだけの高価な分析医に支払えるのは経済力の証明にもなる。
そんな人気作曲家ヴァーノン・ガーシュ(内博貴)は几帳面で神経質で鬱気味。彼が歌詞に興味を抱いて呼び寄せた新進作曲家のソニア・ウォルスク(和音美桜)は金欠で躁気味。ソニアは同棲中のレオンと別れられずトラブルの真っ最中。30歳まで自殺を思いとどまった記念にティファニーで買った指輪と“My Fair Lady”の中古舞台衣装を身に着けて約束の時間に超遅刻して現れるありさまだ。こんな二人が出会ったらどうなるのか?
ヴァーノンは、今ならBlogだが、当時の最新記録装置デンスケ録音機に逐次時刻とコメントを入れながらイライラしてソニアを待つ。「粗雑で二重人格でアバズレだ」。それでも彼女の歌詞に興味を覚え共同作業をすると決めて動き出したが、ソニアは相変わらずの躁の金欠病で“Macbeth”のマクベス夫人の中古の舞台衣装で日時まで取り違えたまま現れる。
「君との会話は安いクリ—ニング屋に出すようなものだ。何が帰ってくるかわからない」
「ホラ、ボタンが取れている」
“They are playing my song”
仕事仲間としての付き合いを離れて初めて二人で出掛けたレストランでは、ソニアの唯一のヒット曲が流れている。不器用に踊るヴァーノンにソニアがコメントを。「背中でピアノを弾いている。オクターブ下はやめてね。人目があるから」
カルフォルニアでレオンに会ったヴァーノンは、レオンを認めソニアと一旦別れるが、思い余ってソニアのニューヨークのアパートを訪ねる。そのいでたちといえばキャメルのスーツにステッキ姿。これは“The Eddy Duchin Story”(邦題 愛情物語)で主役の伝説のピアニストEddy Duchinを演じたタイロン・パワーへのオマージュなのか。
内博貴はシアタークリエには二度目の登場だが、最初のミュージカル「ガイズ&ドールズ」の主役スカイと比べるとカッコよさに更に磨きがかかったようだ。
元宝塚の娘役、和音美桜との共演でもあり、まるでお向かいの宝塚劇場から脚の長い理想の男役が引っ越してきたようだった。(10月1日シアタークリエ。その後大阪、名古屋、福岡巡業)
2012.11.1 掲載
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