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ミリオンダラー・カルテット

フィナーレ! エルヴィス・プレスリーの床に転がってのパフォーマンスにジョニー・キャッシュ、カール・パーカーがノッテくる! ジェリー・リー・ルイスのピアノはクレージー!!
  ロックのカリスマたちが舞台狭しと爆奏する“ハウンド・ドッグ”。観客の半数が立ち上がって踊りだした。
「シェイク! シェイク! シェイク! マッシュポテト!!」
留学生時代に毎週踊っていたロックンのリズムで体が勝手に動き出した。

1956年12月4日、テネシー州メンフィスの自動車修理工場を改築したサム・フィリップスのサン・レコードのスタジオに、ロックンロールの伝説となった4人の若者たちが集まった。この作品はこの一夜だけの最初で最後のジャズ・セッションをミュージカル化したものだ。

パーキンスが新入りのジェリー・リー・ルイスをからかっているところに、今やRCAレコードで大物になったエルヴィスがガール・フレンドを伴ってやってくる。自分には薬臭くて甘ったるい田舎の飲み物「ルート・ビア」を注文しながらも、サムには洗練されたスコッチの「グレンフィディック」を土産品にする成功者ぶり。(因みにこの「ルート・ビア」はのどの渇きにピッタリで飲みだすと癖になる)
  パーキンスは自作の「ブルー・スウェード・シューズ」をエルヴィスが自分の持ち歌として成功させたのが気に食わない。

二人は口論するもサムに発見されなければエルヴィスはいまだにトラック運転手で、パーキンスもたった20ドルのギャラを仲間で分ける田舎歌手のままだったと納得する。サン・レコードのオーナーでサウンド・エンジニアであるサムは、自ら収録したレコードを車に積み、各地の放送局のDJに直接売り込こんでヒット・チャートにのせていたのだ。この間ずっと赤字でこの借金はエルヴィスをRCAに売ることでやっとチャラにした。

エルヴィスが来ると知って立ち寄ったジョニー・キャッシュのカントリー・ナンバーはショックだ。“シックスティーン・トン”からは貧困白人労働者の呻きが聞こえ、“ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ”は聞くものの背筋に戦慄を走らす。

ミリオンダラー・カルテット

軽快なのは売り出し前のジェリー・リー・ルイスで、アクロバチックなピアノ演奏で観衆を沸かす。“リアル・ワイルド・チャイルド”歌って、踊って、ピアノを弾いて。これをTony賞受賞のBroadway直輸入のリーヴァイ・クライスが演じる。俳優さんがここまでピアノを弾けるとはとても日本では考えられない。ジェリーは母親の勧めで聖歌隊に入り神学校に入ったのだが、「汝の敵(女性たち)を愛しすぎて退学となり、サン・コードにオウディションに来たのだ。

サムはジョニー・キャッシュに契約の5年間延長を提案するが、ゴスペルが歌いたいジョニーはすでに大手のコロンビア・レコードと契約していた。「全員が成功した。が、もう少し幸福であれば……」。ロックンロールの生みの親サムの独白に哀愁がこもっている。

劇中歌われるロックとオールディーズは、エルヴィスの“ザッツ・オール・ライト”、全員での“ダウン・バイ・ザ・リバーサイド”など合計23曲セリフはオリジナルの英語で日本語訳が字幕で出るが、日本公演ならではのサービスもある。“See You Later Alligator”を“See you later Arigato”と全員で愛嬌を振りまく。

エルヴィス世代をリアル・タイムで知る中高年層から渋谷人種の若者まで熱狂させたこの作品は、東京公演のあと大阪でも上演された。(9月8日・東急シアターオーブ)


2012.9.26 掲載

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