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劇団四季「桃次郎の冒険」

劇団四季のファミリー・ミュージカルで「ユタと不思議な仲間達」や「魔法をすてたマジョリン」の流れに繋がる子どもを対象としたお芝居と思って観劇に出かけたが、これは筆者の早合点で、実際は子どもサービスとして付き添って来た「大人たちへの人権・反戦啓蒙ミュージカル」だった。(原案者は阪田寛夫)

面白くなければたちまち騒ぎだす大人より難しい子どもの観客たちをお芝居に引き込み、「子どもミュージカルなんて」と内心思っていた大人たちを感銘させる劇団四季は、だてに「ファミリー・ミュージカル」と名乗っているのではないと改めて脱帽した。


手拍子で子どもたちの心を

冒頭、舞台に現れた紙芝居屋は、観客席の子どもたちを手拍子の打ち方の練習を重ねるうちに完全に掌握し舞台に集中させる。舞台からの呼び掛けに一斉に反応する子どもたちと一緒にお芝居を見るのは本当に楽しい。そこに客席から現れたのは現代っ子の桃次郎、桃三郎の兄弟で、おとぎ話を「古臭い」と決めつけ、「お話をやり直してご覧」との紙芝居屋の言葉に、桃次郎は「桃太郎の弟、桃次郎」となり紙芝居の世界へ。

劇団四季「桃次郎の冒険」

ところがお伽噺と異なり、おじいさんとおばあさんは素朴な村人ではなく実は欲張りの年寄りで、正義を行うためではなく、鬼から桃太郎以上に財宝を略奪してくることを桃次郎にけしかける。きび団子を貰って家来になるはずのサル、犬、雉は悪辣なチンピラで、桃次郎の食料を奪い、身ぐるみを剥がし、彼をたった一人で鬼が島に向かわせる。劣勢になった桃次郎を応援する客席の子どもたちの声が実に元気だ。

さて、鬼が島につけば、桃太郎が鬼退治をしたせいで浜辺の村には子どもたちしか住んでおらず、村は荒れ果てている。大人は全員殺され、孤児となった鬼の子どもたちは石のお地蔵さまとなり、暗い洞窟で暮らしているのが可哀そうだ。

意外な成行きに戸惑う桃次郎は心優しい鬼の娘スモモと出会い食べ物を貰うが、それを食べたせいで頭に角が生えてしまう。鬼の姿では人間の世界に戻れない。呆然とする桃次郎をスモモは自宅に連れ帰り、村人たちも桃次郎と仲良くなってゆく。

劇団四季「桃次郎の冒険」

一方、桃次郎の持ち帰る宝物を期待していたおじいさんとおばあさんは待ちかねて桃次郎の弟の桃三郎を鬼が島に送りこむ。サル、犬、雉も今度は逃げられず桃三郎に従う。

桃次郎は村で過ごすうちに鬼退治なるものの略奪の実態と殺戮の残虐さに気付き始めていた。桃次郎を仲間とする鬼たちは桃三郎の軍勢をどううけとめるのか?

「命の尊さ」「愛」「勇気」を劇団四季ファミリー・ミュージカルは素晴らしいプロの腕前で子どもたちに伝えてくれる。

フィナーレで舞台と客席が一体となって歌った「スモモもモモもモモのうち スモモもモモも仲間だよ」がロビーを越えて帰路の街頭まで広がっていったのが嬉しかった。(劇団四季・自由劇場 9月2日まで)


2012.8.16 掲載

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