あの端正な貴公子石丸幹二が、善良な医学研究者ヘンリー・ジキルと邪悪なエドワード・ハイドを微妙に演じ分けるのがこのお芝居の一番の魅力! 石丸はあまりにも熱心な研究が善良な学者をエクセントリックな人物にかえ、これが進むと凶暴な人格になり変わることを観客に納得させている。
彼の演技力からすれば、人格を変える試薬は単なる誘発剤かもしれない、、、、とまで“暴論”すると贔屓の惹き倒しになるかもしれないので本筋に戻る。
世界的名作のミュージカル化
「ジキルとハイド」(音楽/フランク・ワイルドホーン 脚本・作詞/レスリー・ブリッカス 演出/山田和也)は、R.L.スティーブンソンの不朽の名作をミュージカル化したもので、石丸を巡って濱田めぐみ(娼婦ルーシー・ハリス)、笹本玲奈(ジキルの婚約者エマ・カルー)の絡みがドラマに深みを与えている。
ストーリー
真面目な医師ジキルは精神病と認知症を患う父親に心のコントロールを取り戻し人間性を回復させ、そしてひいては人類全体の幸せに貢献するため「人間と善と悪を分離する薬」の研究に取り組んでいる。しかし、病院長である婚約者エマの父や親友からは神を冒涜する危険な作業だと忠告され、病院の理事会では上流階級の理事たちにより「科学より哲学の問題だ」と非難され、人体実験の要請はにべもなく却下されてしまう。
その後、開かれた上流階級の集まるエマと自分の婚約パーティーから逃れたジキルは、親友に誘われるままに場末の娼館「どん底」を訪れ、そこで娼婦ルーシーに自分で試すよう唆される。
自宅の研究室で試薬を服用すると体に走る痛み、呼吸困難、そして恍惚感が湧き上がってくる。代表曲「時が来た」を朗々と歌い上げる石丸がカッコいい。変身したジキルはハイドとなって社会的な制約を脱ぎ捨ててロンドンに走る。ハイドのナンバー「生きている」が伸びやかだ。
ロンドンでは偽善を暴かれた大司教など上流階級がハイドが起こした突発的な事故で追い詰められ、娼婦ルーシーはハイドに傷つけられた身体の治療にジキルを訪れる。今更ながらに自分の人格の変化ぶりに驚くジキル。エマはこの実験中には面会謝絶で自分と会おうともしないジキルの「変心」に戸惑っている。
ルーシーとエマがそれぞれ自分のジキルを想って歌うデュエット「その目に」は美しい。
「赤い試薬」でハイドになり「青い試薬」でジキルに戻る。試薬の副作用は体に突然現れる。エマとの結婚式に現れた医師にハイドのフラッシュ・バックは起こらないのか?
役者以外には照明(高見和義)の切れ味が見事だ。
(東京・日生劇場 3月6日−28日/大阪・梅田芸術劇場メインホール 4月6日−8日/名古屋・愛知県芸術劇場大ホール 4月14日−15日)
2012.4.6 掲載
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