ナイト・クラブ風のステージには2台のピアノとピアニスト。
“I GOT RHYTHM!” “I GOT MUSIC!” エリアンナ、シルビア・グラブ、浦嶋りんこ。
三人三様のエセル・マーマンが二台のピアノに合わせてパワフルに歌い踊りながら順々に登場。客席の手拍子を誘う。
初演から25年目、前回から10年目になる今回の公演のFabulous Cast組ではシルビア・グラブが迫力と華麗のマーマンを見せ、エリアンナはスリムな体で若さを強調する。チョット太めのマーマン(浦嶋りんこ)は儲け役。激しい踊りの後での「身体が軽くなった・・・」には既にノリノリ乗り状態の客席は大笑い。
宮本亜門(作・演出・振り付け)の“I GOT Merman”はブロードウエイの女王エセル・マーマン(1908−1984)の生涯を最初から最後まで彼女の持ち歌だけでたった3人の女性と2台のピアノで粋につづる迫力あるミュージカル。客席でも観客と交流する小劇場の緊密な空間では誤魔化しはきかず、役者の掛け値なしの実力と人間性がそのまま迫ってくる。
ストーリー
マンハッタン生まれのマーマンは娘を学校教師にする、という両親の方針に逆らって「スターになる」と決心し、20世紀フォックスのスタジオ前に陣取ってはスターの出入りを見物していた。
ジョージ・ガ—シュインに見出されブロードウエイで最初に歌ったのが“I got rhythm”
で、その歌声は客席からロビーを通りこしてチケット売り場に待つお客さんにまで届き、一夜にしてスター誕生となった。ガ—シュインは譜面の読めない彼女に先生にはつかず自分の地声で明確に歌う事をすすめ、同じくミュージカルの黄金時代を創ったアービング・バーリンは「ショウほど素敵な商売はない」など彼女のために数々のヒット曲を書いた。
今回の公演では台詞が少しは変えられたらしい。三人のマーマンは“Anything Goes”では、昔は着飾ったけれど、今やユニクロ。女はナデシコ 男は草食、なんでもOK、と歌っている。禁酒法が廃止され、ハリウッドで映画製作が盛んになるとマーマンはMGM映画に進出。ふざけているのがMGMのライオンのジョーク。二人のマーマンが作った枠内で浦嶋マーマンが一声吠えるのに会場からの笑いは一瞬遅れた。(MGM映画の冒頭に出たライオンを知る観客は今のミュージカルには少なくなったのだろう。)
スターとして頂点を極めたマーマンもご多分にもれず家庭的には恵まれなかった。結婚歴は五回で、最愛の夫だった元新聞記者の夫ボブも離婚後に自殺。一人娘の死も自殺らしい。エリアンナのボブは宝塚の男役のように脚が長くてカッコイイ。
トップを走り続けた彼女は弱みを見せない。二度目の脳梗塞で倒れた時、見舞いに訪れた友人が自分はリハビリで回復した、と話すのに対して声は出せなくても口は動かす。“I can do anything better than you”と「ア二ーよ銃を取れ」のナンバーで応える老いたシルビア・マーマンは観客の涙腺を刺激する。
宮本亜門氏は“I GOT Merman”で1987年ミュージカル作・演出家としてデビュー。築地本願寺の初演第一回目はたった40人の観客だったが、その後口コミで大入り満員となり芸術祭賞まで受賞。この作品は初演から全国ツアーを行い、2001年ニューヨークでオーディションをしてのコネチカットでの公演など、節目ごとに再演している。
(シアタークリエ 1月19日まで。そのあと大阪、金沢、栃木で公演)
2012.2.3 掲載
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