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大竹しのぶ主演“Piaf”

ピアフの魂が大竹しのぶに乗り移ったのか、大竹しのぶがピアフの魂に乗り移ったのか。
  「もういいの、もう後悔はしない」フィナーレで病に倒れた中年のピアフが車椅子から立ち上がり涙ながらに、しかし轟くような声で歌う姿には、客席も泣きながらスタンディング・オべーションで応えた。

「ピアフ」(パム・ジェムス作 栗山民也演出)は女優大竹しのぶのライフ・ワークとなるのではなかろうか。売春婦の群がる路上で身に付いた野卑な言葉使い、交通事故治療の後遺症でモルフィネ中毒となり虚ろな瞳で腕をまさぐって注射針をいれる悲惨な姿。ところがマイクに向かうと一転して瞳が輝き国民的、歌手エディット・ピアフを出現させる。

大竹しのぶ主演“Piaf”

第二次世界大戦中はナチス・ドイツに占領されたパリで、芸術家たちが地下に潜ったり、親ナチを装う中で、彼女は平然とナチスのパーティーに出演する。その上で捕虜収容所からレジスタンス活動家をバンドマンに紛らわせて脱走させるなど、危険な作戦を開始した。大竹しのぶの猥褻なジョーク交じりに反戦活動を進める舞台が、いかにもストリート育ちで反権力のピアフらしい。

国民的歌手として成功し、イブ・モンタン、シャルル・アズナブールなど次々と若い恋人を歌手として育て上げるも、常に孤独で男の愛を求めて生きる彼女に同性の理解者が現れる。ピアフと同じく反ナチの伝説の歌手マレーネ・デートリッヒ(彩輝なお)だ。ニュー・ヨーク公演の楽屋で「ドリス・デイがいるのにアメリカ人は戦争未亡人みたいな女を見たがるだろうか?」と不貞腐れるピアフを宥め、「舞台の上でエクスタシーを感じようとはしないでね」と釘をさす。

「分かったわ。ドイツのカアチャン!」鏡の中の二人の穏やかな笑顔にピアフの男性遍歴ばかりではなく女性との、友情もきっちり取り上げたフェミニズム演劇家パム・ジェムスの心配りが感じられる。「全部丸ごと出す」大竹しのぶの渾身の力投に圧倒されがちな男優とは一味違って、元宝塚男役スターの彩輝は彼女の熱演を大らかな雰囲気で支えている。

大竹しのぶ主演“Piaf”

「愛の賛歌」「バラ色の人生」「美しい恋の物語」などピアフの歌は今までも数人の日本のシャンソン歌手たちが自分のレパートリ—として歌っているが、俳優大竹しのぶのシャンソン歌手としての迫力は全身で観客を圧倒する。

因みに今回の「ピアフ」には平日午後7時からの開演が設けられている。勤務終了と同時に劇場に駆け込むのではなく、ゆっくりプレ・シアター・サパーも楽しめるのがお洒落だ。
(シアタークリエ 11月6日まで)


2011.10.30 掲載

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