東日本大震災と原発事故による死傷者の数が明らかになってゆく中、東京でノンビリとミュージカルを観ていて良いのかと、最初は忸怩たる思いで席についていた。ところが観劇後は東北の人たちにこそ『夢から醒めた夢』を観てほしい」と強く感じるようになった。
大地震の後、襲いかかる巨大な津波、原発事故で漏れだす放射線。悪夢の中で生き残った人々の心が求めるのは、亡くなった人たちと交わすもう一日の会話、ピコとマコが浮き彫りにするような信頼関係ではなかろうか? 被災地の自宅に戻り、位牌や形見の品を懸命に探しだす人々の姿からその想いが伝わってくる。
「夢から醒めた夢」(原作/赤川次郎 演出・台本/浅利慶太 作曲/三木たかし 振付/加藤敬二)は、開演前のロビー・パフォーマンスから始まる。
お出迎えの背高ノッポは3メートルもあり、子どもたちが手を差し出すと握手してくれる。ハンド・ベルの小人たちは曲の演奏にも誘い入れ、バルコニーのフランス人形は手を振り返してくれる。ロビーでは撮影可能なので、大人も子どもも大はしゃぎ。
約束は一日の身代わり
華やかだが不気味な夜の遊園地には、霊界への入口がある。夢配達人に誘われた不思議なことの大好きな少女ピコは、交通事故で亡くなりお母さんとの別れもないままに幽霊になった少女マコに出会い、「お母さんを慰めるため一日だけ」と頼む彼女の身代わりとなり霊界に入る。
霊界空港の待合室で年に一度の「光の国」行きロケットを待っているのは、戦争や災害で亡くなった子供たちと美しい魂のまま生きた老人。「光の国」行きOKの真っ白なパスポートを持っている。グレイのパスポートを白に昇級してもらおう、といまだに罪の償いをして働いているのは、やくざ、暴走族、働き中毒で家族を犠牲にしたサラリーマンなどで、出国管理人デビルとエンジェルに監視されている。
避難民の子どもたちは澄みきった合唱をしんみり聞かせ、一転して加藤敬二振付のやくざ、暴走族、サラリーマンたちのダンスはダイナミックというより過激に客席に迫ってくる。
少年メソは自殺したためグレイのパスポートを持つ。マコの白いパスポートを取りだしたはずみに周りに昇級を祝福されて引っ込みがつかなくなる。
ピコは取ちがえで真っ黒に変色したパスポートに責任を感じ、そのまま霊界に留まり空港で働くと申し出るが、マコへの友情と事情を知ったデビルとエンジェルが前例のないパスポートの再発行に取り組むことになる。ところがピコはマコの身元を何一つ知らない。
霊界のパソコンと現世の膨大な名簿を駆使しながら日本中からマコと呼ばれる少女の身元を捜すデビルとエンジェルたちの検索結果が猛スピードで背景のスクリーンに映し出される。「タナカ マキ子 尊敬する人 お父さん」など続々で観客席は爆笑。
発射時間にギリギリに、新しいパスポートを持ったピコはお母さんと再会を果たしたマコを発見。ピコは戻ってきた娘を手放したくないお母さんへの同情で交代を躊躇するが、メソと夢配達人に励まされて思い切ってマコと交代。そこに天上への一条の白い光が貫き、マコたちを乗せたロケットは無事「光の国」へと旅立ったことを知るのである。
天上へ貫く白い光といえば、9・11のワールド・トレード・センターの光のツイン・タワーである。「夢から醒めた夢」は現世と幽界をつなぐファンタジー・ミュージカルとして、ブロードウエイの観客からも共感をよせられるのではなかろうか。
四季劇場「秋」での公演は千秋楽となったが、ぜひ近いうちに再演してほしい。
2011.6.7 掲載
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