新国立劇場バレエ団のダイナミックダンス公演を前に、来日したばかりの芸術監督David Bintley氏を新国立劇場に訪ねた。ちょうど来日最初のレッスンを終えたばかりで“Still wet”と気さくに話すBintley氏は英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の芸術監督を兼任するほか、各地のバレエ団にアドバイスするなど、今世界で最も多忙な振付師でもある。
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——今年は芸術監督を引き受けられてから2年目になりますが、今日のレッスンではダンサーの状態はいかがでしたか?バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に比べるとまだ硬いですか?
ロイヤル・バレエには世界中からダンサーが集まります。日本のダンサーは「硬い」というより真面目でアカデミックな感じです。ロシア・バレエの長年の影響がまだ強いのかもしれません。
日本ではバレエは異国の文化として考えられていますが、実はバレエはその
踊りの中で自国の文化を表現する芸術なのです。日本人はグループで表現するのに秀でています。私はダンスを一目見ると米国出身か、フランス、またイタリア出身かがわかります。
日本のダンサーは白いキャンバスのようで、その上に自分のアイデンティティーとして美しい絵が描かれるのを待ち受けているように見えます。今回私は三作品を紹介しますが、この作品の中でダンサー一人ひとりがもっと自分の殻を打ち破り、自発的に内面を自由に表現するように伝えています。今日もレッスンの終わり頃には、スタジオにリラックスしたいい雰囲気が出てきました。
バレエでは自由に自発性に自分の内面を表現することがもっとも大切なのです。牧阿佐美先生が苦労して基礎を作られた新国立劇場バレエという卵を雛に孵化させる機会に恵まれて、とてもラッキーだと思っています。
——ダイナミック ダンス「コンチェルト・バロッコ」「テイク ファイヴ」「イン・ジ・アッパー・ルーム」三作品の特徴は?
三作品共に個性的ですが、相互によい影響を与えるよう構成しています。
これらはクラシックからの旅立ち、発展といえましょう。「コンチェルト・バロッコ」はとても古典的でストレイト、「イン・ジ・アッパー・ルーム」はアメリカ生まれの自由奔放な動き、「テイク・ファイヴ」はその中間です。クラシック的でもありますが、クールでジャズの自由な動きがあります。
——日本人ダンサーのハンディキャップは、欧米人に比べて手足が短いこと。日本人は「白鳥の湖」のオデットより、新しいダンスに挑戦した方が有利だとは思いませんか? 20年の経験ある30歳の日本女性より、17歳のロシア少女の方が舞台映えするという見方もありますが。
日本人ダンサーは優れたオデット、オディールとして活躍できます。バレエ・ミストレスの言うとおりに踊るだけのスタイルはよいが頭脳のないロシア少女より、私は吉田都さんを選びます。個人のパーソナリティーそのものが大事なのです。
——彼女が背の高いダンサーに囲まれて踊るとき、日本の観客は「大丈夫か、ステップを間違えないか」と座席で緊張してリラックスできないのですが。
日本の観客は、バレエを見る時には教室で授業を受けているようにいつも真面目です。リラックスして楽しんでもらうようにするのが私の役目だと思っています。
バレエ・ダンサーの評価はまた時代によって変化します。今はタマーラ・カルサヴィナ*の時代ではありません。(*編集部注:ロシア帝室バレエ学校出身の伝説的プリマ・ドンナ1885−1978)
5フィート2インチの背の低い女性より5フィート10インチの長身の女性がよいとは思わないし、私は身体的特徴が何よりも大切だ、という古い考え方には組しません。
私は身体的には完璧ではない女性を登用していますが、彼女たちは内面的にもっと美しいのです。
今尚ロンドンにロシア・バレエという競馬用に作られた馬たちが来訪します。彼女たちは数千人のブロンドの中から将来の身長も考慮して選ばれるのです。これはとても危険な考え方です。最低の人種選別だと思います。彼女たちには「イン・ジ・アッパー・ルーム」は踊れません。
——現在、契約期間3年の2年目ですが、日本のバレエを育てるため、4年目の契約にサインされますか、また将来のバレエ・ダンサーと観客を育てるためどのようなプログラムを計画されていますか。
まずバーミンガム・ロイヤル・バレエ団理事会の同意を得て、契約をもう1年延ばしたいと思います。賛成してくれると信じています。
ロイヤル・バレエでは子ども、ジュニア、シニア向けに500もの教育番組があり、4人のスタッフが担当しています。
この(新国立劇場)バレエ・ダンサーは、年間40回から45回の公演以外はレッスンを重ねているだけです。彼らの才能も教育番組のために生かすべきです。
赴任以来、子どもたちのために「ペンギン・カフェ」のワークショップをしています。今回の「テイク・ファイヴ」も公開リハーサル計画があります。財源確保が難しいですが、日本でもバレエ教育を是非実行したいものです。
——将来的にはどうされますか。
ロイヤル・バレエから引き取ってくだされば、ずっとここで指導するかも知れません。(笑い)
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インタビュー後記: ロンドンより成田到着翌日のハードなレッスンの直後というのに、疲れも見せず笑顔も絶やさない。記者の反論にも真摯に応える姿に、グローバルに活躍するプロフェッショナルのありかたを見たようだった。(ダイナミック ダンス 新国立劇場 3月19日より27日まで)
※急告 東北太平洋地震により「ダイナミック ダンス!」公演は中止となりました。
2011.3.12 掲載
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