驀進してくる機関車の前照灯に映し出されるアンナの表情、、、。移ろいだ不安の表情が警笛が鳴りつずけ車輪が迫るにつれて自己決断した人間の毅然とした顔に変ってゆく。
「アンナ・カレーニナ」はロシアの文豪レフ・トルストイの原作を大胆簡潔にミュージカル化したもので(P.ケロッグ脚本・作詞、D.レビーン音楽、小池修一郎修辞・訳詞、鈴木裕美演出)産業革命後のロシアの大地主階級の人々を描く長編小説を美貌の人妻アンナを取り巻く恋愛関係に絞っている。
人妻の恋愛といえば“不倫”だが、アンナ・カレーニナ(一路真輝/瀬奈じゅん)の青年士官アレクシス・ヴロンスキー(伊礼彼方)への恋は原作とは異なりむしろ、世間知らずの奥さまの初恋として描かれているようだ。しかし恋の局面が移り変わるにつれ、母として妻としての想いが深まり、最後には自分の居場所を誇りを持って決断する。
蒸気機関車の正面を据えた舞台装置がアンナの出会いと終わりを見事に暗示している。(美術 松井るみ)
19歳で世間知らずの娘が親の勧めるまま年上の男性に嫁ぎ息子まで産んだが、溌剌とした青年士官に付きまとわれる内につい心が動いてしまう。ヴロンスキーのテラスの柵をヒラリと乗り越えてアンナに迫りゆく輝くばかりの若さ。伊礼が実にカッコイイ!アンナは生まれて初めて男性を愛し、社交界でどんな噂が流されようが燃え上っていく。アンナとヴロンスキーのデュエット「待ち焦がれて」は甘美だ。
一方、15歳年上の夫ニコライ・カレーニン(山路和弘)は厳格謹厳な政府高官で、最早老人である。
原作ではヴロンスキーは社交界の女たらしで、夫は妻子を理解しない封建的な役人として描かれていたのが、このミュージカルではヴロンスキーは若い女性の軽さより年長女性のしっとりした美しさに惹かれる素直な若者であり、カレーニンは最後には妻を許し、妻とヴロンスキ—との間の娘も育てるという人間味のある男性として存在感を示している。
仕事人間カレーニンが出奔した妻を想って歌う「夜だけだ」は意外にも若い観客の共感を呼んだようだ。
四年ぶりに舞台に復帰した一路真輝を待ちわびてかロビーに後輩宝塚スターやファンたちが集っているのが華やかだった。(2月6日まで シアタークリエ)
2011.1.17 掲載
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